USPとは?マーケティングへの活用例や作成手順など解説
1961年、アメリカのコピーライターであるロッサー・リーブスが提唱したUSP(Unique Selling Proposition)は、マーケティングの世界に大きな意識改革をもたらしました。それまでのマーケティングでは、単に商品の売り文句を訴求するだけでしたが、USPの登場により、競合他社との差別化を明確にし、顧客が自社商品を選ぶ理由を具体的に伝えることが求められるようになったのです。
USPの基本概念
マーケティングにおいてもっとも重要な要素の1つは独自性です。顧客にとって「他社と同じ」と思われたら、自社商品を選んでもらう理由がないからです。USP(Unique Selling Proposition)とは、この独自性を指します。ただし、単に他社と違うオリジナルのものというだけでなく、その独自性が顧客に選ばれる理由になる必要があります。
例えばあなたが「スマートフォンと一体化したコーヒーカップ」という商品アイデアを思いついたとします。確かに、このアイデアには独自性があり、おそらくどの競合他社も真似することはありません。しかし、この商品は顧客にとって価値があるとはいいがたいです。そもそもコーヒーカップにスマートフォンの機能を持たせても、それをどう使えば良いか分からないからです。
このように、USPというのはただ独自性があるというだけではなく、顧客のニーズを満たしたり、問題解決ができるといったベネフィットが約束されていなければいけません。
参考ページ:What is unique selling point (USP)? – TechTarget
効果的なUSPにするための3つの条件
USPは独自性があり、その独自性が顧客のニーズを満たすことが重要です。しかし、それだけでは不充分です。USPを決定する際には次の3つの条件・要素を検討し、さらに強化にする必要があります。
独自技術や資源
顧客にとって価値があり、独自性の高い商品やサービスを提供しても、それが競合他社にすぐ真似されるのであれば、それは効果的なUSPとはいえません。そのため、USPは自社独自の技術や資源によってつくりだされる必要があります。
アメリカの大手食品メーカー「マース」では、M&M’s(エムアンドエムズ)と呼ばれるブランドのチョコレートを販売しています。1940年代に販売開始されたロングセラー商品ですが、これは当時、南太平洋に展開していた陸軍部隊のためにつくられたものでした。
軍が兵に甘いものを提供したいとチョコレートを配給していたのですが、南太平洋の暑さの影響で、兵士が食べるときにはベトベトに溶けていたのです。そこで、マース社は「口の中で溶けて、手では溶けない」という強力なUSPを築き、兵隊がお菓子に求める利便性を満たした新商品を開発したのです。
口の中で溶けて、手では溶けないチョコは、M&M’sの特許取得済み技術「ハードシュガーコーティング」によって実現しています。この技術が自社独自のものであり、かつ特許によって守られているため、長年にわたりこのUSPが効果的に機能していたのです。このようにUSPは、独自技術や資源に支えられていることによって初めて中長期にわたり効果的に機能します。
メッセージ
どれほど独自性があり、顧客に価値があるものであっても、それが伝わらなければ購入してもらえません。そのため、USPには、明確で強力なメッセージが必要です。USPに適切メッセージをつけることによって、初めて顧客に認識してもらうことができます。
例えば、株式会社パイロットコーポレーションは、書いた文字を消すことができるフリクションボールペンを開発しました。摩擦で60度以上になると無色透明になるという独自技術に支えられたインクを使用しており、メッセージは「こすると消えるボールペン」です。非常にシンプルな表現ですが、USPをうまく言語化した事例といえます。
一方、三菱鉛筆も当時「ユニボール・シグノ・イレイサブル」という類似商品を展開していましたが、こちらはUSPをうまく表現することができなかったため、顧客にほとんど認知されることもありませんでした。
このようにただ、商品に強い独自性や強みがあるだけでは不充分で、適切なメッセージがUSPには必要です。
一貫性
USPには、一貫性が必要です。具体的には、商品の強みとターゲット顧客、そしてメッセージに一貫性がなければ機能しません。例えば、次のような例を考えてみます。
- 商品強み: 低カロリーで無添加
- ターゲット顧客: 健康志向の人々
- メッセージ:食べ出したら止まらない
商品開発部が健康志向の人々をターゲットに「低カロリー」や「無添加」といった強みのある商品を開発します。それを引き継いだ宣伝部がその商品に対して「食べ出したら止まらない」というメッセージを付けて販売をすれば、健康志向の顧客と価値観の点で矛盾します。
このように1つひとつが最適でも、全体としてみたとき一貫性がなければ、それは売れない商品になります。
USP作成手順
USPは、競合と差別化し、顧客の心を掴むための重要な要素です。ここでは、USPを作成する具体的な手順を分かりやすく解説します。自社の販売したい商品を想定しながら、読み進めてください。
Step1.競合分析
独自性の高い商品を販売しようと思っても、まったく新しい市場というのは失敗リスクが高く現実的ではありません。そのため、すでにある市場の中でUSPの強い商品を展開することを検討します。
既存市場の分析では、競合他社のWEBサイトや広告、レビューなどを調査します。たとえ競合他社の商品がいくら優れていたとしても、その市場にいる顧客全員を満足させていることは、ほとんどありません。必ず既存商品に対しての不満や代替品を望むニーズをもった顧客が存在するため、そういったターゲットを見つけることが肝心です。
参考ページ:競合分析・競合調査とは?フレームワークやテンプレートを使ったやり方を解説
Step2.商品の強みと独自技術を明確化
Step2では、自社商品の強みと独自技術・資源を明確化します。繰り返しますが、強みはただ独自性があるというだけでなく、顧客の問題を解決したり、ニーズを満たすといった価値をもっている必要があります。
また、競合他社が簡単に真似することができないよう、自社独自の技術や資源によって支えられる強みにしてください。例えば、フリクションボールペンでいえば特許申請している独自のインクが該当します。
Step3.ターゲット顧客を決める
次の段階では自社商品を購入するターゲット顧客を決めてください。よく間違う考えとしては「万人に売れる商品をつくろう」というものです。万人を対象にしようとすると、ターゲット顧客が具体的に設定できず、誰に向けての商品なのかが不明確になります。
例えば、都心のビジネスエリアにあるホテルが、ビジネスパーソン向け、観光客向け、家族連れ向けなど、すべての層を狙ったサービスを展開するとします。しかし、仕事向けの設備を整え、観光案内が充実し、子供向けサービスが豊富なホテルでは、誰にとっても中途半端な印象になり一貫性がありません。そのため、どの層からも受け入れられない可能性が高くなります。
逆に、ビジネスエリアで、仕事向けに特化した設備や価格設定などを整えたホテルにした方が、より確実に特定の層から支持をえることができます。このように、自社商品の強みを高く評価する見込みのあるターゲット層を見つけるようにしてください。
Step4.メッセージ作成
これまでの競合分析やターゲット顧客のリサーチでえられた情報をもとに、自社が提供する価値を言語化します。例えば「30分以内に熱々のピザをお届けします」「確実に翌日配送」などのメッセージが該当します。
このステップで作成したメッセージをWEBサイトやソーシャルメディア、メールマガジンなど、あらゆる場所で一貫性をもって顧客に伝えていきます。USPが強力で、メッセージが伝わりやすいものであれば、多くの顧客をひきつけ、集客や販売での成功確率を高めることができます。
その他、いくつか実際のUSPを挙げますので例として参考にしてください。
- 成長企業のための迅速で低価格な印刷・・・小規模企業や個人事業主をターゲットにしたオンライン印刷サービス「Vistaprint」のUSP。ターゲットに提供する価値が明確に伝えられています
- 100年保証の頑丈な革製品・・・革製品を製造・販売する会社「Saddleback Leather」のUSP。100年使える並外れた耐久性や品質を表現しています
- すべて手作り、すべて地元産・・・衣料メーカー「Osmium」のUSP。大量生産が当たり前の業界の中で、手作り商品の希少性や地元地域に貢献するという社会性を訴求しています
USPの完成度を確認する3つのチェックポイント
USPを作成したら、それが適切かどうかを判断する必要があります。自分では良いUSPだったとしても、顧客から見れば魅力的ではないということもあるからです。そこで、USPの主なチェックポイントについて解説します。作成したUSPと照らし合わせて確認してください。
競合との比較
作成したしUSPでは、競合他社の類似商品と何が違うのかが明確になっていなければいけません。顧客が他社商品と比較できなければ、どれを買っても差が生まれず、自社商品を購入する理由がありません。ただし、競合他社を中傷するような表現は避けてください。あくまで自社の強みを客観的に伝えることが重要です。
顧客へのベネフィット
USPは独自性だけでなく、顧客にもたらす具体的なベネフィットを伝えていなければいけません。例えば、高品質な革製品を販売するなら、その耐久性や長寿命が明確に顧客に伝わる必要があります。独自なものをつくることは比較的簡単ですが、それが顧客にとってベネフィットとなる必要があります。
信頼性の確保
企業は、USPでさまざまなことを主張することはできますが、その具体的な根拠や証拠が必要です。何をもって、そのUSPを主張することができるのかを検討してください。例えば「顧客満足度No.1」というUSPを掲げるとしても、その根拠となる調査データなどがなければ、顧客からの不信感につながってしまいます。
マーケティングにおけるUSP活用例
作成したUSPは、マーケティングのあらゆるシーンで活用できます。ここでは、LP(ランディングページ)やオファーを作成することなど例に挙げ、USPの活用方法について解説します。
LPのキャッチコピーに反映
LPに設置するキャッチコピーや見出しには、USPを反映させるようにしてください。そうすることで、WEB広告やコンテンツマーケティングなどで伝えているメッセージと一貫性を保つことができ、CVR(コンバージョン率)の向上にも役立ちます。
例えば「100年保証の頑丈な革製品」というUSPであれば、その耐久性や品質の高さをキャッチコピーでも反映させるようにします。具体的には、次のようなものが考えられます。
- 世代を超えて受け継ぐ、一生モノの革製品
- 妥協のない品質。100年保証の自信
このようにキャッチコピーでUSPを反映させることで、ブランドとしての一貫性を保ちつつ、購買意欲を高めることができます。
参考ページ:ランディングページ(LP)とは? 意味、構成とデザインの制作方法を解説
ストーリーテリングに活用する
ストーリーテリングは顧客と企業との感情的結びつきを築くのに役立ちます。そして、ストーリーの中にUSPを自然な形で挿入することで、顧客はUSPの背景にある企業の思いやこだわりに触れることができます。
例えば、地元産の手作りにこだわる衣類メーカーであれば、素材選びから仕立てまで、1つひとつの工程に心を込めて取り組む職人の様子を伝えたり、地元に貢献したい企業の思いを表現することができます。
顧客は、機能やスペックだけでなく、感情的に共感できる企業を応援したいと考えます。そのため、ストーリーテリングでUSPの背景を語ることは、非常に強力なマーケティング手法といえます。
オファーと結びつける
LPでは、オファーを使います。オファーとは、例えば「7日間無料お試しセット」のようなものです。このオファーをUSPと結び付けることができれば、強力なものになります。
例えば、英会話教室のUSPが「忙しいビジネスパーソンのための、1日15分から始められる英会話トレーニング」というものだったとします。この場合、ターゲットは多忙なビジネスパーソンのため、「商談現場でスグ使える英会話フレーズ集」という冊子をオファーとして活用すれば、ターゲット層に合致するうえ、自社のUSPをうまく反映させることができます。
よくある質問(Q&A)
ここでは、USPのよくある質問について回答します。マーケティングにおいて、USPは非常に重要な概念であるため、細部まで理解をするようにしてください。
Q:ポジショニングとは何が違いますか?
Answer)ポジショニングは、市場全体での自社ブランドや商品の位置づけのことです。顧客の頭の中に占める概念のようなもので、例えば「ベーシックな衣料品を手頃な価格で買えるのがユニクロ」というように、「○○といえば、このメーカー」のような立ち位置を表します。一方、USPとは、顧客にとっての具体的な購入理由を表しています。
参考ページ:マーケティングポジショニングで効果的に消費者へアプローチする方法
Q:なぜUSPが重要なのですか?
Answer)USPは、競合他社との違いを顧客に伝えるのに役立ちます。つまり、マーケティング戦略において重要な要素である「差別化」を具体化したものです。また、USPは平たくいえば、自社の商品を選んでもらう理由です。そのため、一度完成したとしても、繰り返し磨き続ける必要があります。
Q:USPはどう改善すれば良いですか?
Answer)顧客の声やアンケートなどのフィードバックを踏まえた改善が基本です。しかしそれ以外にも、市場の変化や競合の動きなどに合わせて、改善する必要があります。
例えば、ドミノピザは「30分以内に熱々のピザをお届けします」というUSPを築き、実際に効果的でしたが、競合他社が同じことをするようになり、そのUSPの効果は現在では、ほぼなくなっています。そのため、競合や市場の変化に合わせUSPを磨く必要があります。
まとめ