KBFとは?マーケティングの鍵を握る重要要素
企業が新製品を開発しようとする場合、もしくは個人が新規に事業を始めようとする場合には、どんな商品もしくはどんなサービスを提供すれば成功するのかが悩みのタネであるといえます。そんな場合の有力な手段としてKBFマーケティング(Key Buying Factor Marketing)という理論が威力を発揮します。
KBFとは
KBF(Key Buying Factor)とは購入対象となる製品を構成する価値や価格のなかで、顧客が商品の購買を決める際に重視する要素のことで、 購買決定要因と呼ばれます。
第一に挙げられるのは価格です。とにかく安い物を選ぶという消費哲学を持っている消費者は多く、続いて性能、品質、耐久性などが挙げられます。ブランドとかメーカーの実績
など、その商品と間接的にかかわってくる要因もあります。
また、口コミやレビューなど第三者による評価も見逃せない要因です。このほかアフターサービスの有無や保証内容などを重視する方もおられます。不動産物件の場合、交通アクセスの良さや近くにスーパーがあって買い物に便利などといった地理的要因も重要になってきます。
KBFは時世によって変わる
KBFは、時の趨勢や状況、環境、流行などによって変化します。
例えば、自動車の例では、バブル経済の頃(1990年前後)ではビッグカーやVIPカーなどといった車種が持てはやされていました。日産のシーマ、トヨタのセルシオなどが該当し、ちまたでは「シーマ現象」という言葉が横行していました。
当時の日本は経済的に絶頂期にありましたので、金銭的にも余裕があったと思われます。当時の自動車に関するKBFは高級感、贅沢感といったものが大きなウェイトを占めていたはずです。
ところが、バブルが崩壊し、好景気が回復しないまま21世紀を迎えた日本経済は、今度はデフレーションという閉塞感に次第に包まれていきました。そして、自動車の需要は軽自動車やハッチバック式のコンパクトな小型車に移っていきました。今の自動車のKBFは、価格の安さ、機能性といったものになると思われます。
KBFは時代の流れによっても変化しやすいといえますので、その都度見直しをする必要性があります。コロナ禍で在宅ワークが増えている昨今では、デリバリーの有無が有力なKBFとして浮上しています。
隠れた市場心理を探る
消費行動の隠れた部分にも重要なKBFが存在することもあります。
無農薬野菜を好んで摂取する顧客層がありますが、この傾向のキーワードとして無農薬が即座に思いつきます。確かに無農薬であることを購入の判断基準としている顧客層も多いのですが、すべてが該当するとまではいえません。
無農薬を重視する人たちばかりではなく、単に健康を維持したいから、もしくは無害の食べ物にこだわったから、といった動機で無農薬野菜を購入している人たちも少なくないはずです。
こうした点に着目して成功した例としてサプリメントや青汁が挙げられます。このように、表面に顕著に現れない隠れた部分に重要なKBFが存在するケースがある訳です。
KBFの創出
企業側が独自にKBFを編み出して成功したという例もあります。
1980年代の初頭、トヨタはソアラという名の自動車を世に出しました。デジタルスピードメーター、マイコン式のオートエアコンなど当時としては最新のエレクトロニクスを装備した贅沢な高級パーソナルクーペでした。このソアラが市場投入されようとした際に、大方の予想は「こんな贅沢なクルマ、一体誰が乗るんだい?」といったものでした。
しかし、蓋を開けてみると若者や富裕層などを中心に大ヒットし、ハイソサイエティカーや高級パーソナルカー時代の到来といったキャッチコピーが出回っていたほどです。トヨタ自動車は市場の潜在的なニーズを上手く嗅ぎ取り、それを確たるKBF化して自動車市場をリードしていったわけです。
KBFとターゲティングとポジショニング
新商品の開発、もしくは新サービスの展開を企てる時、市場ニーズの正確な把握が生死を分けると言っても過言ではありません。昨今の多様化した市場ニーズに対処するためには、KBFの抽出とともに企画の初期段階でターゲティングとポジショニングというマーケティング戦略が必要となります。
実際問題としてターゲティング、ポジショニング、そしてKBFの3つは互いに独立したものではなく、何らかの共通の領域があります。
KBFとターゲティング
再び自動車を例にしますと、価格の安さで選ぶという顧客層、そして高度なスペックを装備している車であるか否かというこだわりを選ぶ顧客層に分かれます。不景気にもかかわらず、スバルのインプレッサのような価格の張る高性能車にも根強い人気があり、一方で親子連れでドライブに便利なワゴンタイプも、とりわけ若い主婦層に支持されています。
新車を出すといっても、どの顧客層をターゲットにするかが重要になってきます。逆にいえば、絞ったターゲットによってKBFが異なってくるわけです。限られた経営資源をいかに効率よく活かしていくかを考えたときに、どの顧客層をターゲットにするのかが非常に重要です。これがターゲティングという戦略です。
KBFとポジショニング
ポジショニングとは競合他社製品との差別化をはかりながら、自社製品の魅力や特長などをアピールしていくという戦略です。とりわけ重要なのは顧客の頭のなかにどう自社製品の特長を刻み込ませるかです。
ポジショニングとはマーケティングの分野では競合他社との位置関係、すなわち他社製品との違いや自社製品のユニークさなどを明確に把握することだと理解して差し支えありません。
ポジショニングにはKBFと密接なつながりがあり、KBFにもとづかないポジショニングは無意味と主張するマーケターもいるほどです。
ポジショニングは自社目線ではなく、必ず顧客目線でおこなうのが原則です。また、企業理念との一貫性や整合性につきましてもチェックが必要です。他社との差別化という点だけにエネルギーを集中させていると、いつしか企業のモットーからずれた商品になってしまうことがありますので注意すべき点です。
ポジショニングの成功例
ZOZOTOWNはファッション通販サイトの革命児として有名です。
従来のファッションECにおいても、それなりに支持され多くの顧客を獲得していましたが、購入した服が体型に合わない、靴が合わなくて足が痛くなってしまったという理由で返品に至るケースも少なからずありました。
とりわけ海外製品の輸入ファッションとなりますと、サイズの基準に違いがあったりして購入の際には色々な苦労や心配事があったはずです。
ZOZOTOWNは購入希望者の全身のデータを測定し、体型に合った商品を提供するといった差別化で従来の通販の泣き所を解決したわけです。
KBFを用いたマーケットセグメンテーション
セグメントとは区分のことですが、ターゲティングを実施する前段階としてセグメンテーション、つまり市場細分化をおこなう必要があります。この細分化した市場もしくは顧客グループの内、どれをターゲットにするかを選択する訳です。
市場細分化は主に以下の変数を基におこないます。
地理的変数 | 人口密度、気候、文化など |
人口統計的変数(人口動態変数) | 年齢、性別、職業、家族構成、所得水準など |
心理的傾向変数(心理変数) | 趣味、価値観、ライフスタイルなど |
行動変数 | 購入品の用途、購入の頻度、買い替えのタイミングなど |
KBFをもとにマップを作成
セグメンテーションの隠れた有用性として見落としがちで有望な市場の発見があります。セグメンテーションの実施によりマーケットを客観的な目線で俯瞰できるようになるところが大きいからです。
セグメンテーションの具体的な方法としてマップの作成があります。中学校以来、数学で慣れ親しんできたXY平面座標に似せたものです。
例えば縦軸に所得、横軸に年齢といったものを設定したり、KBFを用いたりします。こうしてできたマップを用いて商品のニーズ分けを試みます。
4つのR
分けられたセグメント1つ1つについて、今度はその市場性についての評価をおこないます。評価は、Rank、Realistic、Reach、Responseの4つのRにもとづいておこなうのが一般的です。
Rank(優先順位)
各セグメントを重要性の高さという観点から順位を付け、その順番に沿ってターゲティング
をおこないます。
Realistic(有効市場規模)
そのセグメントが売上や利益の向上が見込めるほどの市場規模を有しているかどうかを判断します。有望な市場であっても母数が少なければターゲティングは避けるべきです。
Reach(到達可能性)
辺境地や離島であったりなど、商品やサービスを提供する際の難易度について調べます。
Response(測定可能性)
営業をおこなったあとのマーケットの反応や効果、影響などを測定できるかどうかを判断します。測定可能性が高ければ適切なターゲティングであったかどうかを検証しやすくなりますし、そのあとのマーケティングにも役立ちます。
STP分析
STPとはSegmentationのS、TargetingのT、PositioningのPのそれぞれの頭文字を取ったものです。セグメンテーションによって市場を細分化し、ターゲティングによってどの顧客グループを対象とするかを決定しました。
販売戦略のキーワードは選択と集中です。セグメンテーションとターゲティングによって顧客層を特定したならば、その的に向けて人、物、資金といったリソースを大胆に集中投下すればよいわけです。
マス・マーケティングからKBFマーケティングへ
戦後の高度経済成長期では大量生産、大量販売を目的としたマス・マーケティングが主流でした。この手法は、対象を絞らずに全ての消費者に向けて画一された方法でおこなうものです。
確かに市場の成長期にはマス・マーケティングは有効でしたが、成熟した市場となっている現代では顧客のニーズや価値観が多様化しているため、必ずしも向いているとは限らず、細分化された顧客層の各々のニーズを満たすというマーケット手法でなければ通用しない時代といえます。
こうした背景からKBFやSTP分析などが脚光を浴びるようになりました。KBFの正確な抽出は非常に困難な作業であることが多く、熟慮した末にKBFを結論付けたが、気がつくと既に他社が手がけており時代遅れの感が漂うといった事態もままあります。
市場調査や競合他社製品の解析など多くの情報を必要とすることを肝に銘じてKBFマーケティングに対応する必要があります。