グロースハックとは?プロジェクトを持続的に成長へ導く新たな概念
グロースハックとはTwitterやFacebook、Dropboxなどのインターネットサービスで爆発的にユーザー登録数を増やした画期的なマーケティング手法です。
最近になってWEBやIT企業のマーケティング部門で注目され、関連書籍が書店にいくつも並んでいるのを目にします。
グロースハックとは
グロースハックはマーケティング部門を中心に営業や開発など横割りの部門のメンバーと連携し、市場分析やプランニングから遂行した検証結果を元にサービスの改善を持続的に繰り返す手法です。
グロースハックは英語にするとGrowth Huckと表記し、Growthは成長、Huckはプログラミングする、を掛け合わせた造語に由来しています。
グロースハックが注目される理由
グロースハックが注目される理由は、WEBサービスに求めるユーザーの思考の多様性やトレンドサイクルの移り変わりの早さが目立つようになり、中長期の結果を求めるマーケティング手法が時代に合わなくなった背景があります。
グロースハックのもつ視点は日々変化するユーザーの思考にフォーカスし、ビジネスプランをブラッシュアップもしくはマイナーチェンジを繰り返すことにあります。商品やサービスはユーザーの要求に合わせて成長することで、持続的に変化するトレンドに対応しやすくなります。
従来のマーケティング手法との違い
グロースハックと従来のマーケティング手法との違いのポイントは4つあげられます。
グロースハック | 従来のマーケティング | |
コスト | 低コストで改善案を何度も繰り返す | 高コストをかけた単発プロジェクト |
重視するデータ | 顧客の反響データを重視 | 経験や感覚を重視 |
プロジェクトメンバー | 複数部門のメンバーから構成 | 1つの部門だけで構成 |
ストラテジー | サービス普及による収益化 | 売上重視 |
コスト
グロースハックによるコストの考え方は、低コストでサービスを改善を繰り返し実践することにあります。これまでのマーケティングのように高い経費をかけて大きなヒットを狙うような発想は重視されません。
重視するデータ
グロースハックがサービスの改善案を検討する際に重視するデータは、ユーザーのアクションから抽出した数値を基準にします。これまで重要視されがちであったプロジェクトメンバーの経験や感覚は参考にしません。
プロジェクトメンバー
グロースハックを目的としたプロジェクトメンバーを構成する際は、マーケティング部門の他に営業や開発部門などのメンバーからも選出します。
部門横断的な構成により普段は関わりが少ない営業と開発部門のメンバーがサービスの改善案を議論できるきっかけになり、スピーディーなグロースハックのサイクルが生み出されます。
ストラテジー
従来のマーケティング手法では売上達成のための戦略が社内でフォーカスされていました。グロースハックではユーザーに長期にわたって使い続けてもらうための戦略を重視します。
商品やサービスの利用データの解析と改善を繰り返すことでユーザーの充足感を満たし、ユーザーは持続的に利用し続け、さらに多くのユーザーへ普及拡大させて収益化を図ることがグロースハックの最大のメリットです。
グロースハックの成功事例
インターネットサービスやQRコード決済の企業がグロースハックの手法を取り入れたことで、その後に大きな飛躍をとげた成功事例があります。
- PayPay
- dropbox
Twitterは月間3億人を超えるアクティブユーザーがいる世界最大級のSNSです。現在では多くの人が利用するTwitterですが、サービスの開設直後には使い勝手が悪くユーザー離れが深刻な問題になっていました。
ユーザーの利便性を改善するためにホーム画面を中心にサイトの簡易化を図ったことでユーザー登録数の急増に成功しました。さらに、初心者へおすすめアカウントを提示してTwitterにのめり込みやすい環境を構築したことがユーザー定着率の改善につながっています。
Instagramは10~20代の若者を中心にユーザーを獲得しているSNSで、Twitterとの違いは画像や動画の投稿をメインにしている点です。FacebookやTwitterから遅れてSNS事業に参入したInstagramのアカウントは毎日5億件以上のアクセスを記録しています。
Instagramが急成長を遂げた大きな背景のひとつに、Instagramで投稿した画像や動画をFacebookやTwitterなど他のSNSへ同時に投稿できるようにしたことが挙げられます。ユーザーの利便性が向上したことで投稿数を増やし、複数のSNSユーザーの目にとまりInstagramの認知度があがってアカウント数が急激に増加しました。
PayPay
PayPayはQRコード決済サービスで全利用者の半数近くのシェアを獲得しています。しかし、サービス導入期では国内において現金支払いがまだ多くユーザー登録数は期待以上に伸びませんでした。
PayPayはユーザーの思考を解析し、100億円にもおよぶ還元キャンペーンを打ち出したことで急激にユーザーを増やすことができました。さらに人気タレントを起用したCMでQR決済といえばPayPay、といったイメージをユーザーに定着させてQR決済に対する不安感を払拭するよう努めました。
dropbox
dropboxはオンラインでストレージにファイルを保管できるサービスで、設立8年で5億人超のユーザーを獲得しました。一時はユーザー増加数の頭打ちに苦慮した時期がありましたが、新規ユーザーは紹介によって増えているケースが多いことに気付きました。
そこでdropboxは紹介したユーザーと紹介を受けたユーザーの両者へ、追加ストレージとして250MBを与えるプランを考えました。dropboxは紹介サービスでユーザー数を飛躍的に伸ばし世界最速で1000億円の売上を達成、オンラインストレージ事業におけるブランドを確立したのです。
グロースハックのフレームワーク
グロースハックの戦略立案には5つのフレームワークが存在します。フレームワークはそれぞれのフェーズの頭文字をとってAAARRと呼ばれ、サービスを成長させる各フェーズにそって課題解決するためのKPIを設定しグロースハックを実践します。
- Acquisition(獲得)
- Activation(活性化)
- Retention(継続)
- Referral(紹介)
- Revenue(収益化)
Acquisition(獲得)
Acquisitionは新しいサービスの新規顧客を獲得するために、多くのユーザーへ認知度をあげるフェーズです。KPIにはサイトのアクセス数やインストール数、ダウンロード数があげられます。
Activation(活性化)
Activationは新規に獲得したユーザーへ向けて継続使用を促して、早期離脱を回避するフェーズです。KPIとしては会員登録数やメルマガ受信の許諾率があります。
Retention(継続)
Retentionは継続利用するユーザーに向けて、商品やサービスの利用回数や頻度をあげて長期利用を促進させるフェーズです。また、サービスの利用を停止しているユーザーへ向けて再アクセスさせる取り組みもあります。KPIとしてはサイトへの再アクセス数があります。
Referral(紹介)
Referralは継続利用するユーザーがサービスを新規ユーザーへ紹介するアクションを誘導するフェーズで、紹介したユーザーに与える特典が起案されます。KPIはサイトのツイートや商品使用のレビュー数などで評価されます。
Revenue(収益化)
Revenueは商品やサービスの利用によってユーザーへ収益につながるアクションを促進するフェーズで、これまでのフェーズを最適化して得られた成果を最大限に収益化させます。
ユーザーが得られた対価に対して設定された金額を払いやすい環境に整えることが大事です。KPIとしてはWEBサイトに課金した金額や広告への売上があげられます。
グロースハックのフロー
グロースハックの手法によりプロジェクトを成功させるには6つのフローがあります。
- ターゲティング
- 商品・サービスの開発
- 現状分析
- 解決策のプランニングと遂行
- アセスメント&レビュー
- フローの繰り返し
1.ターゲティング
万人受けする商品やサービスを展開できるのであればターゲティングの重要性は薄れますが、ユーザーの思考が多様化する社会ではどのようなユーザーに使ってもらうかターゲティングを行う必要があります。
企業が所有する技術の強みを活かせるターゲット層を明確にしてサービスの開発へ移行します。
2.商品・サービスの開発
グロースハックの考えでは最初から時間やコストをかけて完璧なサービスを作ることを重要視しません。まずは早く商品化した状態で市場に展開し、ユーザーのアクションを解析することが重要です。
3.現状分析
市場に投入したサービスに対してユーザーがとったアクションを分析します。グロースハックの手法としては重要なフローで、データを収集しやすいシステムを事前に組み込むことが大事です。
4.解決策のプランニングと遂行
ユーザーの行動分析から現状の課題を抽出し、すぐに解決案をプランニングして遂行します。グロースハックの重要なポイントである、部門横断的なチーム構成により改善したサービスを早期にリセールするフローです。
5.アセスメント&レビュー
リセールしたサービスについても継続してユーザーの行動を評価するフローが重要です。解決策によって分析された評価が指標に届いていないようであれば、解決策を再プランニングして遂行するフローを繰り返します。
6.フローの繰り返し
市場に投入したサービスが指標通り収益化されてグロースハックによるプロジェクトが成功しても、ヒット作の寿命が短い傾向がある社会では1から5までのフローを継続的に繰り返すことが重要です。
フローを繰り返すうえでもっとも重視したいのはプランニングと実行のスピード性です。ユーザーの思考をいち早く感知し、商品やサービスを持続的に成長させるにはスピーディーにグロースハックを実践することが大きなポイントとされています。
グロースハックを遂行するプロジェクト
グロースハックを遂行するにはプロジェクトチームを発足しなければなりません。プロジェクトのなかでもリーダー的な役割を担ってグロースハックのフローを先導するグロースハッカーの存在が必要不可欠です。
グロースハッカーの任命
グロースハッカーの任務を遂行できる人材に必要な資質があります。これまでのマーケティングと違って奇抜なアイデアを創造できる資質より、ほかの部門から選出されたメンバーと一緒に業務を遂行できる着実性やデータ分析力を重視すべきです。
また、グロースハックの特性であるトライ&エラーを繰り返しても心を折らない忍耐強さもグロースハッカーには必要とされています。
グロースハックが遂行しやすい環境づくり
グロースハックが根付いていない企業であれば、グロースハックのプロジェクトが動きやすい環境を整えることが重要です。特にグロースハックの特徴であるデータ重視のプランニングは、これまでの成功体験や慣習をもとに意思決定された環境下では承認されにくい傾向があります。
グロースハックのフローをスピーディーに循環させるには、ターゲティングやプランニングの承認に時間をかけることを得策としません。グロースハックにはアクションして得られたデータを元に改善案を実行するフローが遂行しやすい環境づくりが重要です。
まとめ