NPSとは?基本事項やメリット、算出方法などを解説
顧客満足度調査やアンケート調査をおこなったことはありますか?
これらの調査を実施した経験があるなら、おそらく1つの疑問に直面したことがあると思います。それは、高得点をつけた顧客であっても、そのあと別の企業に乗り換えたり、リピートしてくれないケースが多いという点です。
実際、BAIN&COMPANYの調査によれば、顧客満足度と収益性にはほとんど関連性がないと報告しています。では、どの指標を使って自社の改善を進めれば良いのでしょうか?
こういったときに役立つのがNPS(Net Promoter Score)です。NPSを測定することで、正確な顧客ロイヤルティを知ることができ、自社の成長戦略を考える手がかりとなります。
NPSとは?
NPSは、顧客ロイヤルティを数値化する指標の1つです。フレッド・ライクヘルド氏を中心に開発され、著書『The Ultimate Question (邦題 : 顧客ロイヤルティを知る究極の質問) 』で初めて紹介されました。
NPSは業績との相関関係が高いことや、アンケート調査のように複数の質問をするのではなく「友人や同僚にすすめたいか?」というシンプルな質問を重視するのが特徴です。
欧米の株式公開企業では約3分の1が活用しているともいわれ、現在、日本でも多くの企業が注目しています。日本企業がNPSに注目する理由としては、人口減少が続いていることが一因です。このまま人口減少が続ければ、今後さらに新規顧客の獲得コストが上昇することは明白です。
そのため、既存客にできる限り長く自社の商品やサービスを購入してもらいたいという狙いがあります。そして、そのためにはNPSが有効な指標です。
参考ページ:What is Net Promoter Score? – hotjar
NPSが誕生した経緯
NPS開発者フレッド・ライクヘルド氏は、従来の顧客満足度調査の限界があったことを指摘しています。
例えば、サブスクリプションビジネスをしている場合、顧客維持率は重要な指標です。しかし、この維持率が高いからといって、必ずしもユーザーが自社のサービス・商品を歓迎しているとはいえません。ただ単純に、会社を切り替えるコスト(スイッチングコスト)が高く、ユーザーが解約を望んでいても、それができない状態である可能性があるからです。
そこで、フレッド・ライクヘルド氏は業績につながるもっとも良い質問はないかを調べました。そこで32業界にわたり4,000人以上の顧客に対して次の質問をおこないました。
- その会社に満足していますか
- その会社を同僚や友人に推奨しますか
- その会社から商品やサービスを購入し続けますか
- 初回のようにその会社を再び選びますか
- その会社はロイヤルティを持つに値しますか
- その会社は業界の優れた基準になりますか
- その会社は革新的な解決策を用意しますか
- その会社は取引しやすいですか
これらの質問をおこなったあと、顧客行動を半年から1年にわたり追跡調査しました。
その結果「その会社を同僚や友人に推奨しますか」という質問が、再購入などの行動と結びついていることが判明したのです。つまり、この質問が企業の成長を示唆する重要な指標ということが判明したのです。
顧客満足度との違いは?
NPSと類似した用語に顧客満足度(CS)という言葉があります。NPSと顧客満足度の大きな違いは、収益に相関があるかどうかです。顧客満足度調査における「満足」という言葉は曖昧で、実際に継続購入をしたり、他者に推奨するかどうかは分かりません。
つまり、顧客満足度が高くても、必ずしも収益がそれにともなって向上するわけではありません。それに対して、NPSは収益との高い相関関係が認められています。
顧客満足度 | NPS | |
指標 | 満足度 | 推奨度 |
尺度 | 多くの場合1-5点 | 0-10点 |
質問数 | 多い | 基本1問+α |
スコアと業績との相関 | 不明瞭 | 相関が高い |
NPSを測定することのメリット
実際、NPSを導入し測定することで多くのメリットがあります。そこでここでは、その代表的なものを取りあげ解説します。
成長戦略を描きやすい
開発者フレッド・ライクヘルド氏によって、NPSは企業の成長率と高い相関関係があることを明らかにしています。
例えば、1999年から2002年までのパーソナル・コンピューター業界において、NPSの高さと成長率は次のような結果になっています。
出典: 書籍 『顧客ロイヤルティを知る究極の質問』 ランダムハウス講談社 p262
その他、生命保険業界や自動車業界、航空業界などでも同様の結果をえています。つまり、企業がNPSを向上させることに尽力すれば、業界内での競争力を高め、将来の収益を高める可能性が高いと予測できるのです。
このように、効果実証済みの指標を目安に事業を進めることができるのは、企業の進むべき方向性が明確になるという点で大きなメリットです。
競合他社との比較が可能
NPSの結果は数値で正確に測定できます。そのため、競合他社との比較が簡単で、自社の業界内での立ち位置を客観的に知ることができます。仮に競合他社と比較して自社のNPSが劣っていたとしても、どれくらいの差があるのかを把握できるため、自社の目標設定がしやすいです。
例えば、業界内のNPSを調査し、ある企業が自社よりも高い数値を獲得していることが判明したとします。そのあと、ターゲットになる企業の成功要因を重点的に研究し、自社に取り入れることも可能です。このように、競合他社と容易に比較できることは、NPSの大きな魅力です。
フィードバックをえるチャンス
NPSを測定する際に、ユーザーからさまざまなフィードバックを受けとれます。このようにユーザーの声を直接聞くことで、自社の改善点や問題点を把握し、成長につなげることができます。
例えば、ユーザーが「商品購入後、一切企業からのコンタクトがない」などの不満を聞きとることができれば、自社がNPSを高めるためにどのようなサービスを提供すれば良いのかを判断する材料になります。
NPSの算出方法
NPSの特徴の1つは非常にシンプルに算出できるという点です。具体的な手順は、次の通りです。
質問をする
ユーザーに「当社(商品・サービス)を友人や同僚に推奨する確率を0から10で評価してください」という質問をおこないます。実際に質問する際には具体的な商品名などを入れるようにします。例えば次のように質問します。
- 自社のABCアプリを友人に推奨するかどうか、0点から10点で評価してください
- 自社のSEOコンサルティングサービスをお知り合いに推奨するかどうか、10点満点で評価してください
結果を分類する
0から10までの11段階評価を次のように分類します。
【9-10点 推奨者】
9-10点をつけたユーザーは推奨者と呼んでいます。実際に再購入率が高く、他人に自社の商品を推薦してくれることも多いです。フレッド・ライクヘルド氏が調査したところ、紹介者の約8割はこの推奨者からのすすめで購入しています。
【7-8点 中立者】
7-8点をつけたユーザーは受け身で満足しているため中立者と呼んでいます。ロイヤルティや熱意ではなく、惰性が商品を購入する動機づけになっているため、他社が好条件を示せば簡単にスイッチします。フレッド・ライクヘルド氏によると、再購入率や推奨率は推奨者と比べ半分以下に下がることが多いと伝えています。
【0-6点 批判者】
0-6点は批判者と呼んでいます。インターネット上などにある否定的な口コミの8割以上がこのグループで占められています。まれに批判者の中にも収益性が高いユーザーも存在します。しかし、否定的態度が強いため、将来的に会社や商品の評判を下げるなどのリスクが高いです。
NPSの計算
NPSを算出する公式は次のとおりです。
例えば、顧客100人に調査を実施し以下のような結果であると仮定します。
- 批判者(0〜6点):30人
- 中立者(7〜8点):10人
- 推奨者(9〜10点):60人
批判者と推奨者の割合に注目すると、批判者が30%、推奨者が60%です。推奨者と批判者の差であるため、NPS=60-30=30%と評価できます。
また、例えば全員が批判者で推奨者は0の場合、NPS=0-100=-100です。逆に全員が推奨者で、批判者はゼロならNPS=100-100=+100と評価されます。そのため、NPSは理論上、-100から+100までの数値で決まります。
NPS導入のポイント
NPSは、企業の成長を予測し、顧客ロイヤルティを測る重要な指標です。しかも、簡単な質問と計算で調べることができるため、早速自社に取り入れたいとお考えの経営者やマーケティング担当者も多いのではないでしょうか。実際、競争力を高めるために多くの企業が導入しています。そこで、NPSを導入する際のポイントをまとめました。
分析と対策
NPSはただス、コアを出してそれで終わっては意味がありません。NPSの向上、つまり推奨者を増やし、批判者を減らすための行動をとる必要があります。そのために、自社の推奨者と批判者の分析をおこない、改善・強化施策を進めるようにしてください。
内部意識の浸透
NPSでえられた知見を元に改善策をすすめるには、経営層、マネジメント層はもちろん、全部署横断で取り組む必要があります。一部の部署だけがNPSの改善に向けて行動しても、一過性のものとなってしまいます。全ての従業員が顧客の視点を持ち計画的に進めるようにしてください。
批判者への対応
批判者となっているユーザーに対しては、NPSのでおこなった調査後に速やかに連絡を取り、なんらかの解決アクションをとる必要があります。フレッド・ライクヘルド氏は、深刻な批判者に対しては48時間以内に対応することを推奨しています。また、問題を現場だけで解決ではない場合、マネージャーや経営層と相談し、あらたな解決策を検討します。
NPSのよくある質問
ここでは、NPSについて良くある質問と答えをお伝えします。
Q:日本で調査する場合の注意点は?
Answer)日本の業界でNPSを計測すると、多くの場合マイナスになるといわれています。理由としては2つ考えられます。1つ目は日本人の特性として、たとえその商品やサービスを気に入っていたとしても、人に自慢したり推奨したりしない気質があります。また、2つ目として往々にして、真ん中(つまり5点)を選択しがちという癖があるためです。こういった日本人独特の特性を理解し、あくまでも競合他社と比較することで、数値の善し悪しを判断してください。
Q:NPSの高い業界や低い業界は?
Answer)日本においてNPSが高い業界は電気製品、自動車、百貨店、携帯電話などです。一方、低い業界は消費者ローン、生命保険、などの業界です。
Q:測定する際に気をつけるべきことは?
Answer)NPSの質問は「この会社(あるいは商品・サービス)を友人や同僚に推奨する可能性は、どれくらいありますか」というものです。その際、ユーザーが0-6点までの批判者であると判明したら、その場で改善に繋がるフィードバックをしてもらうようにしてください。例えば「追って社員から連絡をさせてもらっても良いですか」のように伝えることができます。それが難しい場合は、次に伝える質問として「第1問でつけた点数の主な理由は何ですか」と尋ねてもかまいません。このように不満をもっている理由を詳細に確認することで改善策に活かすことができます。
Q:なぜ10点の指標なのか?
Answer)評価基準として、一般的に10点に限らず5点満点、3点満点などがあります。しかし、フレッド・ライクヘルド氏は、ユーザーが評価尺度を直感的に理解できるのが10点なので、これがベストであると伝えています。これには学校での成績評価が影響していると考えられます。学校では10点満点(あるいは100点満点)を使うことが多く、ユーザーが5点満点や3点満点よりも点数の意味を理解しやすいと推測されます。
Q:複数の質問をしても良いか?
Answer)せっかく顧客に質問をするなら、できる限りたくさんのことを質問しようと考えてしまいます。しかし、質問項目をつめ込むほど、ユーザーの心証が悪くなり、質問に対しての真剣度も下がりがちです。したがって、NPSの調査では限られた質問にとどめるようにしてください。もしさらに聞きたい質問があるなら、別の機会に異なった調査をおこなった方が妥当です。
まとめ