SaaS企業でSEOを効果的に実施するためのポイントを解説
成功しているSaaS企業の成長をみると、多くの場合でSEO戦略が功を奏しています。SaaSビジネスとSEOは非常に相性がよく、SaaSの基本的な戦略である新規顧客獲得の際のコストダウンという点でSEOは優れた手法です。
SaaS市場は飽和状態であることが多く、そのなかで新たな顧客を確保するためには既存戦略とは別の手法を考える必要があり、将来的な広告費の上昇を加味すると、応急処置では間に合わず、特効薬はないといえます。
SaaS SEOであっても通常のSEOと似ている点は多いものの、特に顧客体験を強く意識するという点で異なります(通常のSEOでも顧客体験は重要ですが、SaaSでは殊更に重要です)。
SaaS SEOとは
SaaS SEOとは、関連するキーワードの検索結果で検索上位を獲得することにより、SaaS (Software as a Service)企業のWEBサイトのトラフィックを増やすプロセスのことです。
多くのSaaS企業がPPC広告、SNS、アフィリエイトなどのマーケティングを利用して、新規顧客の獲得を急速に拡大しています。しかし、マーケティングコストが増加し、有料マーケティングに依存することは将来的なリスクを抱える可能性があることはすぐにわかります。
では有料広告を止めることができるかといえば、話はそう簡単ではありません。有料広告に依存している以上、広告を止めるということはトラフィックが大幅に減少し、新規顧客獲得数に大きな影響があるためです。
そのため、将来にわたって成長し続けるSaaS企業にはSaaS SEO戦略が必要です。正しいSEO対策は、一定のトラフィックを確保し続け、継続してコンテンツ制作を続けることでメディアを爆発的に成長させることができます。多くのSaaSビジネスは、チャネルへの投資を増やして、流入元を多様化し、獲得コストを持続的に維持しています。
SaaS SEOと他業種向けのSEOには違いがありますが、Google の主なランキング要因は、あらゆる種類のビジネスでまったく同じです。具体的には次の3つが重要です。
- 高品質なコンテンツ
- 被リンクの質と数
- ランクブレイン(検索クエリとコンテンツの関連性)
SaaSとは
SaaS(Software as a Service、サーズ)とは、クラウド上のソフトウェアをインターネットを通じて利用するサービスのことです。
SaaSの例としてはSlack、Chatworkのようなチャットシステム、Zoom、Google MeetのようなWEB会議、セールスフォース、Sansan、Kintonのような営業支援システム、freee会計、マネーフォワードのような会計システム、SmartHR、HRMOS(ハーモス)のような人事システムなどがあります。
多くのシステムでサブスクリプション方式(定期的に料金を支払い利用するサービス)を取っていることが特徴的であり、これが新規顧客を獲得することやKPIの設置、SEOとの相性の良さと大きく関わっています。
下図のようにSaaSビジネスは急激な成長を遂げており、今後も大きく伸びることが予測されているため、マーケティング戦略をどのようにするかを考えるべき企業数も急激に増えています。
画像出典:レイヤー別にみる市場動向(総務省)
SaaS企業のマーケティングKPI
SaaS企業のマーケティングは他のビジネスモデルとは異なり、サブスクリプション方式が一般的です。そのため、新規顧客の獲得数だけではなく、獲得単価や解約率までKPIとして設定されます。
よくみかけるSaaS企業のマーケティングで用いられるKPIは次のとおりです。
- CAC(顧客獲得単価)
- LTV(顧客生涯価値)
- ユニットエコノミクス
- MRR(月次経常収益)
- チャーンレート(解約率)
CAC(顧客獲得単価)
CAC(Customer Acquisition Costとは顧客獲得単価のことです。顧客一人を獲得するためにかけたコスト(人件費、広告費など)を意味します。
CACは上記計算方法で求めることができ、例えば、月に100万円をかけて10人の顧客を獲得できた場合のCACは10万円ということになります。
※新規顧客獲得にかけたコストの合計には営業費用、広告費用、マーケティング費用、ツール費用、制作費用などをすべて含めるのが一般的ですが、月間CACで出す場合には制作費用などは含めないこともあります。
CACと似た言葉にCPA(Cost Per Acquisition)があります。CPAも顧客獲得単価という意味ですので同じ意味ですが、使われる場面が異なります。CACは自社サービス全体の顧客獲得単価を意味することがほとんどであるのに対し、CPAはWEB広告を運用する際にコンバージョン(問い合わせ数、購入数など)を1回獲得するためにかかった費用ということを意味することがほとんどです。
LTV(顧客生涯価値)
LTV(Life Time Value)とは顧客生涯価値のことです。1人の顧客が契約してから解約するまでにもたらす利益の合計を意味します。
LTVは上記計算方法で求めることができ、例えば、月間1万の利益が出て、平均契約継続年数が3年の場合には 1万円 × 12ヶ月 × 3年 = 36万円となります。
新規顧客を増やすことで売上を伸ばすことができるのはもちろんですが、平均契約継続年数を伸ばすことでLTVを増やすことができるため、重要な指標として用いられます。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、顧客1人あたりの採算性のことです。つまり、投資した額より多くの利益を得られているかどうかを指標としています。
ユニットエコノミクスは上記計算方法で求めることができ、例えば、LTBが36万円、CACが10万円だった場合のユニットエコノミクスは3.6万円です。一般的にはユニットエコノミクスが3以上で健全といわれます。つまり、獲得単価の3倍の収益が出れば健全経営とみなされます。
MRR(月次経常収益)
MRR(Monthly Recurring Revenue、月次経常収益)とは、SaaSのようなクラウドサービスで使われる用語で、毎月繰り返し得られる収益のことです。 サブスクリプション方式の商品やクラウドサービスなどが増えたことで、注目されるようになりました。
サブスクリプション方式のサービスは単発で売り上げて終わりではなく、継続して収益が入り続けますので、ストックビジネスとなっています。どの程度のストックが積み上げられているかを指標とすることで、将来見込みを正確に計ることができます。
チャーンレート(解約率)
チャーンレートは解約率のことです。サブスクリプション方式のサービスでは新規顧客を獲得することも非常に重要ですが、既存顧客をどれだけ安定的に維持し、解約させないかということも非常に重要な要素です。
一般的には次の3つの要因からチャーンレートを重視する企業は数多く存在します。
- CACを回収する前に顧客が解約する赤字
- 新規顧客の増加より既存顧客の解約が多ければ事業は衰退する
- 既存顧客を維持するほうが簡単でコストがかからない
SaaS SEOの重要性
SaaS企業が成長するためには有料広告配信は重要な手法です。しかし、継続的に成長を続け、堅実な経営戦略を取るためには、次の要因からSEOは極めて重要度が高い施策といえます。
- 成長を加速できる
- 顧客獲得単価を抑えることができる
- 他のチャネルとの連携ができる
成長を加速できる
SaaS SEOであっても通常のSEO対策同様にコンテンツは非常に重要です。正しいコンテンツSEOをおこなうことで将来的に爆発的な成長を遂げることが可能です。特にエバーグリーンコンテンツを制作することで、大きくトラフィックを伸ばすことができることが経験的にわかっています。
顧客獲得単価を抑えることができる
PPC広告や検索連動型広告(リスティング広告)、SNS広告などは新規顧客獲得に有効ですが、継続してコストがかかり続けるという特徴があります。広告運用がうまくいけばCPAを抑えることができますが、競合、時節、時代などさまざまな外部要因により広告費が高騰するリスクがあります。
また、大きな特徴としては広告費用を捻出し続けなければトラフィックは維持できないものがあります。
一方、SEOであってもコンテンツ制作やサイト維持に費用はかかりますが、時間の経過とともにCPAを下げることが可能です。SEOだけで新規顧客を獲得しようとした場合、最初はかなり高めのコストがかかりますが、時間経過とともに獲得コストが下がり、トラフィックが増大するにつれて獲得し続けることができるという理想の形を作ることができます。
他のチャネルとの連携ができる
SaaS SEOではコンテンツ制作費用がかかりますが、制作したコンテンツはGoogleによりランキングされ、検索結果に表示されるだけではありません。SNS戦略、メールマーケティングの促進にも利用できます。コンテンツを利用して被リンクを獲得できれば、検索エンジン以外の流入確保も可能になりますので、コンテンツの2次利用、3次利用に使えます。
SaaS SEOマーケティングのポイント
SaaS SEOマーケティングで重要な要素は多数ありますが、特に次の4つのポイントは押さえておいてください。
- ターゲットを明確にする
- サービスの認知に注力する
- アプローチを変える
- 社内体制を整える
ターゲットを明確にする
マーケティングのファーストステップでは、誰に対して営業活動をするのかを明確にする必要があります。SaaSのマーケティングではリード獲得が必須ですが、ターゲットから外れたリードを集めても成約に至らないためです。
ターゲットを明確にするためにはペルソナを作り、カスタマージャーニーマップの制作までおこない、チームで共有する必要があります。ターゲットをよく理解するためには、次の3つを検討してください。
- ユーザーをよく知る現場社員へのインタビュー
- ユーザーへのアンケート
- ユーザーへのインタビュー
サービスの認知に注力する
SaaSサービスの開始時には、サービスの内容もサービス名も世に浸透していません。SEOでは指名検索が重要ですが、SaaS SEOではとりわけ指名検索の重要性が高いため(ビジネスチャットツールが欲しい場合には「チャットツール」ではなく、「スラック」や「チャットワーク」で検索する)、サービスの認知に注力することが極めて重要です。
自社のサービスのベネフィット(何ができるのか、どのような動きができるのか、メリットは何か)を公式サイト、オウンドメディア、アーンドメディア(SNSや個人ブログ)、ペイドメディア(広告)などを通じて発信しなければなりません。
特にサービスの導入期にはブランディングではなく、具体的にどのような利益があるのかをしっかりと伝えるために、導入事例を使うことが有効です。大手企業でも利用していることを見ることで、中堅企業や中小企業にも浸透させることができるためです。
アプローチを変える
ターゲットを明確にした段階でカスタマージャーニーマップができているはずです。興味関心、認知、比較検討、購入、拡散などのステップごとにアプローチを変え、顧客ニーズを満たす必要があります。
興味関心や認知のフェーズでは、ユーザーは漠然と情報収集をしている可能性が高く、検索連動型広告やオウンドメディアにより情報提供をおこない、リードを獲得してサービスの説明することが有効です。
比較検討のフェーズでは、ユーザーの持っている課題の解決策をオウンドメディア、セミナーなどにより理解してもらい、資料請求を通じてベネフィットを伝えることが効果的です。
購入フェーズではユーザーが発注を確定できるように具体的なクロージングが必要ですし、拡散フェーズでは継続的に利用をし続けてもらえるように共感性のある情報発信が重要です。
このように、フェーズに合わせてアプローチを変えることであらゆるユーザーを顧客に変える努力を怠らないことが重要です。
社内体制を整える
SaaS企業も最初から実績のあるSaaSを売っているわけではありません。当初は限られた人員、予算のなかで成果を出すことを求められますので優秀な人材が必要なのはもちろんですが、社内体制が整えられていることが重要です。
マーケティング部門と営業部門の連携はいうに及ばず、インサイドセールスとフィールドセールスをどのように使い分けるのか、どこまで外注するのかという精査がなければ成果は見込めません。
特に外注についてはWEB制作、コンテンツ制作、オウンドメディア運用、広告運用、戦略策定など依頼する内容、依頼先によって大きく成果に影響します。
検索上位を取るためのSaaS SEO戦略
SaaS SEO戦略とはいっても、検索上位を取る手法は通常のSEO戦略と大きくは変わりません。ただし、一般的なSEOと比較すると指名検索の重要性がさらに高く、被リンクをどのように獲得するかは将来的な伸びに大きく影響する点で異なります。
SaaS SEO戦略では次の4つの手順で検討してください。
- SEO診断
- キーワード調査
- コンテンツ制作
- 被リンク獲得
SEO設計
最初におこなうべきはWEBサイトに正しいSEO設計ができているのかを考えるところです。WEBサイトを制作会社に作らせたとしても、SEO対策が施されているとは限りません。むしろ、「SEOに強いWEBサイト制作ができる」ことを売りにしている制作会社でもほとんどの場合はSEO対策できていません。
このことを念頭において、どのような設計にすべきなのか、必要な要素は何かを考える必要があります。社内にSEOの知見やノウハウがあればベストですが、ない場合にはSEO会社に相談することで何かしらの知見を得られるかもしれません。
注視すべきは内部SEO、外部SEO、コンテンツSEOの3つですが、SaaS SEOの場合には特にユーザー体験を意識する必要があります。
キーワード調査
コンテンツ制作の前にキーワード調査をおこない、見込み顧客が検索エンジンで自社を見つける際のクエリ、フレーズ、用語を検討する必要があります。一般的にSaaSのキーワード調査は見込み顧客が検索の際に使用するだろう軸キーワードをもとにブレストをおこなうことから始まります。
その際、次の3つのクエリのどこに該当するのかを考え、最終的には指名検索されるような設計にすることが重要です。
- インフォメーションクエリ
- トランザクションクエリ
- ナビゲーションクエリ
インフォメーションクエリ
インフォーメーションクエリとは、検索割合のもっとも多い検索語句のことで、何かの情報を調べたいときに使う検索クエリのことです。
例えば、「SEOとは」や「SEO会社」などがインフォメーションクエリに該当します。
トランザクションクエリ
トランザクションクエリとは何かを購入や申し込みをしようする方が使うクエリのことです。具体的な商品を探していることが多く、例えば、「SEO 格安」や「東京 SEO会社」のようなものが該当します。
ナビゲーションクエリ
ナビゲーションクエリは、特定のサイトを探すときの検索クエリです。指名検索とも非常に似ていますが、「東京SEOメーカー」や「Amazon」のように具体的な企業名、商品名、サービス名、サイト名などが使われることが多いのが特徴です。
コンテンツ制作
コンテンツ制作の際には読者を想定して、検索意図を意識する必要があります。しかし、コンテンツ制作はSEOライティングの技術があればできますが、戦略的にSaaS SEOを成功させるためには次の3つを心掛ける必要があります。
- トピッククラスター
- ニッチなコンテンツ
- 動画への転用
トピッククラスター
トピッククラスター(コンテンツクラスター)とは、特定の話題(トピック)に対して集合体(クラスター)を作るSEO手法のことです。特定のカテゴリ内でピラーコンテンツ(柱となるコンテンツ)を作り、その下層ページと内部リンクをつなぐことで1つの集合体を作ることができます。
この内部リンクで同じトピックをつなぐことに非常に強いSEO効果があり、ロングテールSEOと合わせて活用することで検索上位化が可能になります。
よく大手メディアでは記事の最後に「関連するコンテンツ」や「おすすめコンテンツ」のような形で同じカテゴリの記事への内部リンクを設置していますが、これもトピッククラスターを意識しての設計です。
ニッチなコンテンツ
SaaSビジネスでは、その商品やサービスを利用することで得られるベネフィットが明確であることが多く、軸キーワードのSEO対策も重要ですが、それ以上に自社サービスと関連するニッチな情報発信が重要です。
ニッチであればあるほど、専門性が高くなる傾向にあり、Googleが重要視しているE-A-T(Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)のこと)に通じるものがあります。
SEOのキーワードマッピングという意味でも、その業界のオピニオンリーダーとなるという意味でもニッチなコンテンツは重要であり、意識すべきポイントです。
動画への転用
公式サイトやオウンドメディアで配信したコンテンツのパフォーマンスが良い場合、それは動画コンテンツへの転用を検討できます。十分なトラフィックが確保できていることがわかっていれば、ユーザーにとって温度感の高いトピックである可能性が高く、コンテンツ企画の時間を大幅に短縮することができます。
Visual CapitalistによるとYouTubeは世界で2番目にアクセスが多いサイトであり、comscoreによるとYouTubeは世界で2番目に使われる検索エンジン です。これだけ大きいプラットフォームでの情報発信が無料でできることを考えると利用しない手はなく、制作した動画をテキストコンテンツでも紹介することでシナジー効果が見込めます。
画像出典:Ranking the Top 100 Websites in the World(Visual Capitalist)
被リンク獲得
被リンクの獲得はSEOが始まって以来、変わらず主要なランキング要因になっています。ブラックハットによる被リンクの量産や質の悪いサイトからの被リンクは不要ですが、リンクビルディングをすることは今やSEO対策の常識であり、被リンク対策をすることが悪であるという風潮は過去のものといえます。
- リンクに値するコンテンツを作る
- 他メディアでのコンテンツ公開
- 被リンク営業
上記のような手法を検討し、被リンクを獲得し続けることを常に考えてください。
まとめ