越境ECとは?市場規模、メリット、デメリット、始め方までを解説
経済産業省の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」によると、2021 年の世界の越境 EC 市場規模は7,850 億 US ドルと推計され、その値は 2030 年には 7 兆 9,380 億 US ドルに及ぶとされています。
2021年から2030年までの越境ECの年間成長率は26.2%へと拡大。しかも、国内と同じ振る舞いで海外に展開しても売上を見込める事例も多数登場しています。「ECサイト「日本語だけ」でも海外売上伸びる訳」の記事にもあるように、国内でECをしているなら、常に越境ECに目を向けることで、事業拡大を一気に見込める可能性を常に持つことができるようになっています。
越境ECとは
越境ECとは、国外、海外へ自社の商品のECとして展開することです。越境ECを手軽に行えるプラットフォームなどの誕生により、国内向けの商品を海外に展開しやすくなったことから、EC事業の1つとして注目が高まっています。
インバウンド需要から、海外における観光客が国内商品を爆買いするなど、日本製の品質に対する海外の信頼性が高かったことから、日本企業の越境ECの可能性はそもそも高かったと言えます。コロナを通じて店舗での直接購入からインターネット販売への意識がさらに高まり、海外向け商品を手に入れる際に、越境ECを取り入れるという選択を取る流れを後押ししたと言えます。
参考:アメリカの越境ECを成功させるには?市場規模やアメリカ進出のポイントを解説
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模については、様々なデータが存在しますが、別の一次データを参考に算出したデータが多く存在します。最も分かりやすいデータとして、経済産業省の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」で公表された以下の3つのデータが参考になります。
- 世界全体の越境ECの市場規模
- 中国の越境ECの市場規模
- アメリカの越境ECの市場規模
以下、説明します。
世界全体の越境ECの市場規模
前述した経済産業省の算出した推計によると、2021 年の世界の越境 EC 市場規模は7,850 億 US ドルとなっています。
中国の越境ECの市場規模
中国消費者が日本の商品を越境ECで購入した金額は、2022年が2兆2,569億円、2021年が2兆1,382億円となっています。
中国のECは、季節やイベントによる短期的な売上が大きいのも特徴の1つです。2020年の独身の人と呼ばれるキャンペーンでは、中国で特に有名なECプラットフォーム持つアリババグループと京東商城(JD.com)の合計がわずか1日で12兆円の取引高を記録しました。
アメリカの越境ECの市場規模
アメリカから日本の商品を越境ECで購入した金額は、2022年が3,561億円、2021年が3,362億円となっています。
また、 EC専門の市場調査に長けたEDCMのレポートでは、アメリカのAmazon.comが世界のマーケットプレイスで、第1位の取引高となっています。第2位、第3位が、中国のアリババグループ運営の淘宝网(Taobao)、天猫国際(Tmall Global)ということを考えると、Amazon.comというモール1つで、アメリカのEC市場の大きさが伺えます。
参照:Top eCommerce marketplaces worldwide
越境ECのメリット
国内ECに留まることなく、越境ECへ事業を展開するメリットは、主に5つあります。
- 既存のEC商品を急速にスケール化できる
- 顧客対象が大幅に増える
- 国内競合と差別化できる
- 金銭的なリスクを減らすことができる
- 海外のWebマーケティングのノウハウが身につく
以下、説明します。
既存のEC商品を急速にスケール化できる
既存商品を外国へ売るタイプの越境ECであれば、商品開発などを行わず、商圏を大きく広げることができます。海外でのニーズも存在するジャンルの商品であれば、日本語のECサイトに、ターゲットとする国のユーザーにフレンドリーな決済サービスを導入するだけで、売上を伸ばすことができます。
サブスク型や手数料課金の海外向け決済プラットフォームを使うことで、国合わせたローカライズに掛かる時間や費用の負担も下げることができます。既存のEC商品が実は海外の人が獲得する接点がなかったため、大きな売上を取りこぼしているという可能性もあるかもしれません。そうした商品は、越境EC参戦することによって、短期的に、小さな施策で、大きな売上を出すことができるようになります。
顧客対象が大幅に増える
UNFPA(国連人口基金)の調査によると、2023年の日本人の1億2330万人で世界第12位となっており、人口は2022年に比べ230万人減少。国内の人口が減ることは、国内向けECの顧客の現象を意味します。
一方、世界で最も多く国は、インドであり、推定で14億2860万人。第2位に中国で14億2570万人、 第3位はアメリカの3億4000万人となっています。越境ECで人口の多い国へ商品をリーチすることができれば、顧客対象は大幅に増えます。既存商品に対するニーズや課題解決がグローバルなものであれば、越境ECに取り組むことで大きなリターンが期待できます。
参照:世界人口白書2023
金銭的なリスクを減らすことができる
海外の通貨で売上を上げ、海外での通貨での利益を残す、日本円以外のグローバルなキャッシュを持つことができます。そうなると、時代の中で訪れる円安や円高の際に、柔軟に対応できます。
海外のWebマーケティングのノウハウが身につく
海外向けに商品を展開する中で、越境ECの対象とした国独自の事情、法律、プラットフォームなどに精通していきます。海外へ商品を展開する敷居を下げるきっかけにもなり、今後、EC以外の事業を海外へ展開させる際に役立ちます。海外に事業所を作らずに、国内にいるだけで、外国をターゲットとした事業をスタートできる点も、越境ECのメリットと言えます。
参考:海外のコンテンツマーケティングの事例5選! 取り組みのポイントも解説
国内競合と差別化できる
越境ECに取り組むことによって、国内の競合性に左右されないマーケットで戦うことができます。越境ECで生まれた利益を国内のEC事業に投資することで、国内の競争にも強くなり、EC事業全体のビジネスの安定的な維持を図ることができます
越境ECのデメリット
国内に居ながら、手軽に海外へ商品を展開できる大きなメリットを持つ越境ECですが、国内向けECと比較した場合、デメリットが主に4つあります。
- 商品配送のコストとリスクが掛かる
- 外国向けのサポートやフォローが必要になる
- 外国の独自の税制や法律に対応する必要がある
- 越境ECに向けたバックオフィスのコストが肥大する
以下、説明します。
商品配送のコストとリスクが掛かる
国内へ配送するよりも、海外へ配送するほうが、もちろんコストは大きくなります。輸送経路が多く、輸送距離も増すため、紛失などのリスクもあり、クレームによる返品対応も含め、再送のコストも大きくなる可能性があります。
外国向けのサポートやフォローが必要になる
国内消費者向けのサポートやアフタフォローに比べると、越境ECでは、言語の壁、国民性の違いなどから、その難しさは一気に増すと言えます。越境ECに対する顧客対応を適切に行う人材の獲得やアウトソーシング先の発掘など、乗り越えるべき壁が多く存在します。
参考:ECサイトの運営は辛い?対処法やECサイト運営成功のポイント紹介
外国の独自の税制や法律に対応する必要がある
商品の内容や販売方法などを含めた、越境ECに関わるすべてのフェーズを、その国の税制や法律に対応させる必要があります。国によっては、州や地域によっても、法律が異なる場合があるため、法律的な問題をクリアにし、対策する必要があります。
越境ECに向けたバックオフィスのコストが肥大する
越境ECに関する人事、経理、法務、一般事務などのバックオフィスが肥大化し、国内ECの利益率を下回る可能性もあります。国内ECでは現れなかった問題やタスクがコストとなり、越境ECの利益を下げる可能性があることも念頭に置いておくことが大切です。
越境ECの始め方
越境ECの始め方として、以下の5つの方法が主に存在します。
- 越境ECが可能なショッピングモールで販売する
- 越境EC運用のプラットフォームを活用する
- 既存ECサイトを多言語化する
- 既存ECサイトのまま決済システムだけを海外に対応させる
- 外国向けに、ECを立ち上げる
以下、説明します。
越境ECが可能なショッピングモールで販売する
海外のショッピングモールで、自社の商品を販売することで、越境ECを始めるという方法です。越境ECとして、有名なモールとして、アリババグループ運営の淘宝网(Taobao)、天猫国際(Tmall Global)、京東商城(JD.com)、 拼多多(Pinduoduo)があります。
アメリカでは、Amazon、eBay、Walmartの3つが売上額の高いモールとして、知られています。
システムの構築や運営の手間が要らない点がメリットですが、競合が多く、モール内のマーケティングに長けていく必要があります。
参考:海外ECのサイトランキングを国別で紹介!参入におすすめの国は?
越境EC運用のプラットフォームを活用する
越境ECの運用に強いプラットフォームを使って、独自ドメインのECサイトを立ち上げる手法です。最も有名なプラットフォームがShopifyと言えます。Shopifyのサイト自体にも、越境ECに関する分かりやすいガイダンスがあります。
管理画面の使いやすさや日本語サポートを含め、グローバルで先進的な機能を続々と追加している点が魅力です。決済面では、暗号通貨の対応もすることが可能です。
越境ECの運用プラットフォームを利用することで、フルスクラッチでECサイトを作るよりも、コストを抑え、事業をスピーディーに進めることができます。
参考:Shopifyを使った越境ECのはじめ方!役立つアプリなども紹介
既存ECサイトを多言語化する
既存のECサイトを多言語化し、アップデートすることで越境EC始めることが可能になります。しかしながら、送料の提示や、ターゲットとなる国への法律や税制をカバーしながら、既存サイトを多言語化する必要があります。
国によって出すべき情報が違うため、複数の国へ越境ECを展開する場合は、単なる日本語サイトを多言語化するのではなく、それぞれの国で情報の切り出しが必要になります。
既存のECサイトが国内向けの場合、日本のサーバーを利用しているため、多言語化サイト独自のSEO対策で、外国からのアクセスを獲得する必要が出てきます。多言語化サイトに対して、リスティング広告を仕掛けていく手法で、売上へ繋げる方法もあります。
多言語化によるWebサイトの施策は、SXO(Search Experience Optimization)の1つでもあり、既存ECサイトの隠れた可能性を見直す機会になります。
参考:SXOとは?SEOとの違いを踏まえ対策や注意点などを詳しく解説
既存ECサイトのまま決済システムだけを海外に対応させる
ペイパル 東京支店のシニア・ディレクター 兼副代表は、東洋経済のインタビューで、日本語サイトのままでも海外からの売り上げが急増することを指摘しています。
これは、既存のサイトに、海外でよく利用されている決済プラットフォームを導入し、そのボタンを張るだけで、越境ECを始められるということを意味します。
海外向けの日本人に向けた発送に関する情報を日本語で書くことで、オール日本語のサイトでも、越境ECサイトとして立ち上げ、機能させることが可能になると言えます。
参考:オンライン決済とは?決済手段ごとのメリットやデメリット、特徴などを解説
外国向けにECを立ち上げる
外国向けにECサイトを新たに立ち上げることで、越境ECを始める方法です。ユーザビリティやデザインや情報構成を、その国のターゲットユーザーに合わせることができます。その国向けのECサイトとして独立させることができ、シンプルな運用が可能になります。
また、SEO対策の点でも利点が大きいと言えます。サーバーがある物理的な場所は、SEO効果に直結します。そのため、サーバーを借りるなら、その国のサーバーを利用すると、日本のサーバーからその国へ向けて越境ECサイトを作るよりも、SEO効果が期待できます。
参考:海外SEOとは?取り組む手順やアクセスアップの方法など解説
越境ECに関するよくある質問
Q:越境EC事業、越境ECサービスとは何ですか?
Answer)越境ECとは、インターネット通販の機能を使い、国内の商品を、海外の人が購入できる仕組み、ビジネス、ユーザー体験のことを指します。
Q:一般貿易と越境ECの違いは何ですか?
Answer)一般貿易は、商品を企業と取引し、海外へ商品を卸すのに対して、越境ECは直接購入者へ販売することが大きな違いです。
Q:越境ECの目的は何ですか?
Answer)越境ECの目的は、新たな商圏を獲得し、EC事業の拡大を図ることにあります。国内で売れている既存商品を海外でさらに飛躍させる目的だけでなく、国内ではニーズがニッチであるため、利益を大きく出すことができない商品を大きくスケールさせる目的で、越境ECを行う企業が存在します。
Q:越境ECの利点は何ですか?
Answer)一般貿易、海外で拠点を作る店舗運営などに比べて、海外向けの事業を始めるハードルが著しく低いことです。海外のECモール、越境ECの運用プラットフォーム、決済システムなどがグローバルな対応をし続けていく時代の中で、越境ECは、海外向けの事業創出の中で、とてもスタートアップしやすい利点があります。
Q:越境ECにはどんな種類がありますか?
Answer)越境ECの種類は、海外のショッピングモールに出店する方法では、中国では、アリババグループ運営の天猫国際(Tmall Global)、京東商城(JD.com)、Pinduoduo(拼多多)があり、アメリカでは、Amazon、eBay、Walmartなどが存在します。
自社で越境ECサイトを立ち上げる場合では、越境ECが可能なショッピングモールで販売する、越境EC運用のプラットフォームを活用する、既存ECサイトを多言語化する、外国向けにECを立ち上げるなどの種類が存在します。
Q:越境ECの注意点は何ですか?
Answer)国内ECとはまったく異なる種類のコストやリスクを伴う点です。商品の配送が海外に及び、送料が上がり、紛失のリスクも高くなります。外国向けのサポートやクレーム対応、外向独自の税制や法律に適応したECサイトの構築などにも注意が必要です。国内ECに比べ、バックオフィスコストが肥大する恐れがあり、売上に対する利益率にも常に注意する必要があります。
まとめ