MRRとは?管理すべき理由や計算方法を解説
賃貸住宅や保険に代表されるとおり、月や年に一定の利用料金を支払うことで受けられるサービスは昔からありました。しかし、昨今ではWEBサービスが進化を続けていて、こうしたビジネスモデルのサービスが増えてきています。
そして、定額サービスの提供社は、MRR(Monthly Recurring Revenue / 月間経常収益)と呼ばれる指標で確認して、自社の経営状態が健全な状況かどうかを見極めることが大切です。
MRRとは
MMR(Monthly Recurring Revenue / 月間経常収益)とは、月々で継続してえられる収益のことです。主に、サブスクリプションやSaaS(Software as a Service)のサービス提供社が経営上の指標として用います。
MMRの推移を毎月ごとに確認しておくと、サービスの成長率や利用者数の増減などを推測できます。例えば、MMRの減少が続くようならば、サービスがなにかしらの課題を抱えている可能性があります。この場合はサービスの課題解決が求められます。MMRを管理しておくと、このように、サービスに対して戦略を描くことが可能です。
サブスクリプションとは
サブスクリプションとは、料金を支払うことで、サービスを一定期間提供するビジネスモデルのことです。代表的な例を出すと、Netflix(ネットフリックス)のような動画配信サイトが挙げられます。利用者は、Netflixに会員登録して月額料金を支払うと、1ヶ月間だけ同サイト内で配信中の動画を見放題で楽しめます。
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SaaSとは
SaaS(Software as a Service)とは、指定料金を支払うことで、クラウド上に用意されたソフトウェアを一定期間だけ利用できるサービスのことです。有名なSaaSは多数ありますが、Chatwork(チャットワーク)といったツールもこのうちの1つです。Chatworkの場合は、基本利用料が不要ですが、このフリープランでは機能制限が課されます。有料プランに切り替えて、月額の利用料金を支払うことで、機能制限が緩和されて本格的に利用できます。
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MRRとARRの違い
ARR(Annual Recurring Revenue / 年次経常収益)とは、毎年にわたって継続的にえられる収益のことです。MMRが月ベースなのに対して、ARRでは年ベースで収益が計算されます。
例えば、月額1,000円のプランを100人の契約者がいるとすると、MRRでは10万円(月額1,000円 × 100人)の収益となります。一方、ARRでは120万円(月額1,000円 × 100人 × 12ヶ月)を計上することになります。
MRRの種類と計算方法
定額サービスの動向を探るうえで、サービスによってもたらされた収益の内訳を計算していくことになります。具体的には、MRRは、下記の5つに分類されます。
- MRR
- New MRR
- Expansion MRR
- Downgrade MRR
- Churn MRR
MRRの計算方法
MRRは、月額サービスにおける収益の合算値です。算出方法は下記のとおりです。
New MRRの計算方法
New MRRとは、新規契約者のみを対象にした月の利益のことです。この指標は、サービスの新規立ち上げのほか、新規獲得施策の成否を判断するといった場面で利用されます。New MRRは、次のように算出されます。
例えば、新規の契約者が2人いて、月額料金を1,000円だとします。このときのNew MRRは、2,000円(2人 × 1,000円)となります。
Expansion MRRの計算方法
Expansion MRRとは、既存の契約者において、前月と比較して増加した利益分を指します。通常、既存の契約者による利益の増加は、プランのアップグレードやオプションサービスの追加といったときに発生します。
この指標を観察することで、サービスの成長性を把握できます。また、新たなプランやオプションの提供開始時に、その動向を追う目的で用いられます。このうち、プランのアップグレード者を対象とする場合は、下記のようにExpansion MRRが算出されます。
Expansion MRR =
アップグレードした契約者数 × (アップグレード後の月額料金 – アップグレード前の月額料金)
増加した利益分が契約者によって異なる場合は、次のようにも計算されます。
例えば、前月で1,000円のプランに加入していた契約者が10人いたとします。さらに、この10人が2,000円の上位プランに変更したとします。このとき、Expansion MRRは10,000円(10人 × ( 2,000円 – 1,000円))になります。
後者の場合は、契約者ごとに当月から前月の利用料金を差し引いて計算します。さらに、契約者ごとに算出した数値を合算して、最終的なExpansion MRRの数値とします。
Downgrade MRRの計算方法
Downgrade MRRとは、既存の契約者のうち、前月よりも減少した利益分のことです。こうした背景としては、プランのグレードダウンやオプションサービスの解約といったケースが該当します。
この指標では、サービスの成長性の鈍化を察知できます。また、どの部分で減少したのかを見極めることで、サービスの課題抽出に役立ちます。Downgrade MRRは、下記のように算出されます。
Downgrade MRR =
ダウングレードした契約者数 × (ダウングレード後の月額料金 – ダウングレード前の月額料金)
例えば、10人の契約者が月額2,000円のプランから月額1,000円の下位プランに移行したとします。このときのDowngrade MRRは、10,000円(10人 × ( 1,000円 – 2,000円))となります。
Churn MRRの計算方法
Churn MRRとは、既存の契約者がサービスを退会したことによって損失した収益分のことです。このとき、Downgrade MRRの数値はChurn MRRに含まれませんので注意してください。Churn MRRとDowngrade MRRを合算することで、前月対比の減少総額を算出できます。Churn MRR自体の算出方法は、次のとおりです。
例えば、契約者の10人が月額1,000円のプランを退会し、さらに、別の契約者のうち10人が月額2,000円のプランを解約したとします。このときのChurn MRRは、30,000円(10人 × 1,000円 + 10人 × 2,000円)という結果になります。
MRRの計算時における注意点
MRRは、あくまで月ごとに繰り返し計上される利益のみが対象となります。そのため、下記のような注意点があります。
- 入会時の初期費用は計上されない
- 無料や減額キャンペーンの対象者は利用料金を差し引く(請求金額で計上する)
- 契約者の支払い遅延が発生したとしても計上する
MRRにはこうした定義がありますので、MRRの数値と実際に自社がその月にえた利益には乖離が見られます。
MRRの改善方法
MRRの内訳をみていくと、改善すべき点が浮かび上がってきます。数値を改善するためには、それぞれの各論ベースでの対策が求められます。
なお、MRRは利用料金と契約者数の合算です。物理的には、基本利用料金を釣り上げることで、MRRが上がるわけですが、解約者も増えてしまいます。さらに、サービスの評判が悪くなるといった危険も伴います。原則としては、基本利用料金の釣り上げでMRRの改善を図るのは控えてください。
New MRRの改善方法
New MRRは、その月の新規の契約者ベースで数値が決定します。この数値を高めるためには、新規の契約者数を増やす必要があります。新規を獲得するためには、見込み顧客の育成や広告宣伝を強化するといった手段があります。
Expansion MRRの改善方法
Expansion MRRは、契約者の料金プランやオプションサービスの利用で数値が変動します。そのため、Expansion MRRを伸ばすうえでの施策としては、アップセルを促す方法があります。ちなみに、アップセルとは、顧客単価を上げるための取り組みのことです。
アップセルを促すためには、プランAを契約している契約者に対して、メールマガジンで上位のプランBの利点を訴求するといった手法が挙げられます。このほかでは、新たに利便性が高いオプションサービスを用意するといった手段があります。
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Downgrade MRRの改善方法
Downgrade MRRは、Expansion MRRと逆の概念です。そのため、改善施策としては、Expansion MRRと同様になります。
ただし、Downgrade MRRでは、契約者がサービスに対してなにかしらの理由で満足していないことが伺えます。ですので、サービスが抱える課題を特定して、サービス内容を改善することも視野に入れてください。
Churn MRRの改善方法
Churn MRRは、契約者数の減少によって数値が変わります。Expansion MRRと同じく、経営上ではネガティブな指標ですので、数値を減らすことを目指していくことになります。
改善に対する取り組みは、Downgrade MRRと同様です。サービスに対して契約者が満足していない可能性がありますので、サービス内容を見直していきます。このとき、退会時に契約者に「退会する理由」をアンケートで集めておくと役立ちます。
MRRの利用における具体事例
通常、MRRは自社の経営状況を把握するために利用されます。しかし、MRRは、下記のような事例でも利用されることがあります。
- SaaS Quick Ratioと併用して分析の精度を高める
- 投資家や証券アナリストが企業経営を評価するとき
SaaS Quick Ratioと併用して分析の精度を高める
SaaS Quick Ratioとは、SaaSサービスの成長率を測るKPI(重要業績評価指標 / Key Performance Indicator)のことです。
KPIとは、簡単にいうと、目標を達成するための行動を評価した指標のことです。つまり、ここでは、SaaSサービスの目標値に対して、現在の達成度合いを再確認するという意味合いを持ちます。
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そして、SaaS Quick Ratioの計算式は下記のようになります。
この計算式は、前月対比の増益分を減益分で割っていますので、成長率を割り出せることになります。仮に、増益分が10万円で、減益分が20万円だったとします。すると、成長率は50%となります。Quick Ratioが100%を上回っていると、「サービスが伸びている」と判断できます。そのため、この例では、サービスが減退したと捉えられます。
投資家や証券アナリストが企業経営を評価するとき
MRRは、企業サービスの成長性を表す数値です。とりわけ、定額サービスが事業の柱となっている企業にとっては、もっとも大切な指標としてみなされるケースさえあります。
投資家や証券アナリストは、「株式投資する場面として適しているか」を判断するうえで、MRRの分析を用いることがあります。
MRRは、4つの内訳指標に分類されます。このうち、サービス立ち上げ時には「どの程度、勢いがあるのか」が問われますので、New MRRが重視される傾向にあります。この段階で、New MRRが大きく伸びていれば、今後の成長にも期待ができるサービスと判断されますので、株価が釣り上げられる傾向にあります。
さらに、サービスの大幅なリニューアルや強化のフェーズでは、「既存の契約者がアップグレードするのか」が重視されます。そのため、Expansion MRRの数値が分析されます。
これとは逆に、Downgrade MRRとChurn MRRの数値が高くなっていると、サービス利用者が減っている、ないしはコストカットされている状況ですので、株価としては売りに傾きやすくなります。
MRRのよくある質問
MRRについて、よくある質問をFAQ形式でご紹介しています。
Q:MRRとはなんの略称ですか?
Answer)Monthly Recurring Revenueの略称です。
これは、月間経常収益などとも呼ばれます。決算資料や企業の経営を評価する際の指標として広く利用されるビジネス用語です。
Q:MRRは、なぜ重要なのですか?
Answer)月額や年額のように定額制のサービスの動向を把握するためです。
ですので、SaaSやサブスクリプションといった、定額制サービスを提供する企業にとって重要な指標として扱われます。
Q:MRRの減少とは、どのような意味合いを持ちますか?
Answer)サービスが課題を抱えている可能性があります。
MRRの数値が減少する要因は、大きく分けて、契約者の減少と顧客単価の減少のいずれかを意味します。内訳の数値を分析して、サービスが抱える課題を特定して改善してください。
Q:MRR以外にビジネスの健全性を判断する指標はある?
Q: MRRの向上には、どのような施策が有効ですか?
Answer)新規顧客の獲得、アップセルやクロスセル、サービス品質の向上といった改善施策が効果的です。
このうち、どの改善策が効果的かを判断する必要があります。そこで、まずはMRRを下記の4つの指標に分解してください。
- New MRR
- Expansion MRR
- Downgrade MRR
- Churn MRR
そして、それぞれの数値を分析して、改善が必要な項目を特定します。例えば、このうち、New MRRの数値が著しく低いようでしたら、新規の顧客がほとんどいない状況を意味します。そのため、営業部門が新規獲得施策を推し進める必要があります。
まとめ