業務標準化とは?特徴と手法を解説
企業が利益追求の活動を進める上で、各々の事業や部門でそれぞれ業務が進められています。事業ごとに与えられる業務は異なりますが、同一の事業内では、複数の従業員が同じ業務を進めることがあります。
このとき、従業員間で業務品質に差が出ないように取り入れられるのが、業務標準化という考え方です。
業務標準化とは?
業務標準化とは、ある業務を誰であっても同じような成果を出せるように作業フローやルールを整えることです。具体的には、作業の手順や教育環境をマニュアル化したり、業務報告を義務付けます。そして、誰が担当しても、一定の業務品質を保てることを目指します。
業務標準化を導入するメリット
業務標準化を進めると、社内にはさまざまな利点が生まれます。この利点には、例えば、下記のようなものが挙げられます。
- 社内にノウハウを蓄積できる
- 人的なアクシデントに対応しやすい
- 業務品質を担保できる
社内にノウハウを蓄積できる
業務標準化を目指す過程で、効果があった施策と、そうでない施策が浮かび上がってきます。効果的な施策は継続して、不要な作業フローやルールは排除していきます。こうすることで、効率的な業務遂行の手法がノウハウとして社内に蓄積していきます。
逆に、業務標準化が進められていないと、作業フローやルーリングの情報が従業員へ平等に伝えられません。さらに、教育システムも整備されておりませんので、従業員が自力で作業フローを覚えていくことになります。情報共有のシステムも整っていないため、こうした情報が社内に浸透しにくくなります。
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人的なアクシデントに対応しやすい
業務標準化を進めると、作業フローやルールが定まるので、誰が担当しても業務を遂行できるようになります。
例えば、作業の担当者が病欠や退社といった理由で職場を離れることになったとします。しかし、会社が業務のノウハウを有しておりますので、こうした場面でも、容易に他の従業員へ作業を引き継ぐことができます。つまり、新たな担当者が離脱する従業員の代役を担えるようになるということです。業務環境を整備しておくことで、人的なアクシデントが発生したとしても、業務の進行を脅かすリスクを抑えることが可能です。
業務品質を担保できる
一般的に、人には向き不向きがありますので、従業員間で業務品質にムラが発生しがちです。しかし、作業フローをマニュアル化しておくと、ある程度は従業員間の業務品質を均一に近づける効果があります。
さらに、教育や情報共有システムを整備すると、従業員間のスキルや知識の格差を減らせます。例えば、新しく業務に参加する従業員がいるとします。このときに、作業フローや社内ルールといったマニュアル書類を従業員がアクセスできる社内クラウドに保管しておくと、新人が自発的にマニュアルをチェックできます。「新人だから知らない」ことが減りますので、慣れている従業員と遜色なく業務を進行しやすい環境に近づきます。
業務標準化する上での注意点
原則的に、業務標準化することで企業組織は健全な状態に向かいます。ただし、作業をルーチン化する上で注意すべき点があります。
モチベーション低下につながる
業務標準化を採用すると、従業員間の業務品質が均一化します。しかし、誰がやっても同じ業務品質になるということは、裏を返すと「誰でもよい」ということです。極端な言い方をすると、真剣に取り組もうとも、若干手を抜いても、業務の成果はさほど変化しません。これは従業員の性格にもよりますが、「誰でもよい」業務を従業員に与えると、仕事に対する充実感を損わせる可能性があります。
そして、こうしたネガティブな感情は、人から人へ伝染する性質がみられます。モチベーションが低下したグループが生まれる危険もありますので注意してください。そうならないためにも、上長に対してフランクに相談できる場を用意するといったメンタルケアも大切です。
すべての業務をルーチン化できない
業務標準化することで、業務品質は安定しますが、すべての作業をルーチン化できるとは限りません。例えば、下記のように個人の創造性や技術力に依存せざるを得ない職種では、業務標準化が極めて困難です。
- 出版編集者
- デザイナー
- エンジニア
出版編集者
編集者とは、主に書籍や雑誌、WEBサイト、動画コンテンツを作成して、その品質を管理する業務を指します。とくに、出版社における書籍や雑誌編集者の場合は、売れる企画を発掘するという役割を担います。こうした、個人の経験値や嗅覚にも近い感覚は、教育を通じて伝えることが困難です。
デザイナー
デザイナーとは、雑誌書籍のレイアウトや装丁、WEBサイトのビジュアルや機能性、服飾の設計と多岐のジャンルに渡って視覚的な設計に携わる職種の総称のことです。共通して言えるのは、色彩や姿形の美しさといった感覚そのものを扱いますので、業務標準化する上で適していない業務として挙げられます。
エンジニア
エンジニアとは、主に工学的なシステムの設計や開発、また正常に作動するかをテストするデバッグ作業までを担当する職種を指します。自身の専門知識を応用して、新たな仕組みを生み出して形にする役割を担います。このとき、教科書や講義を通じて、プログラミングの基礎知識といった、専門知識の各論を伝えることは可能です。ただし、それ以上の思考力や発想力といった能力は個人に依存します。
業務標準化すべき状況
業務標準化と真逆の状況を属人化と言います。属人化とは、特定の従業員に業務が集中してしまうことから、他の従業員に業務の進め方やスキルが伝わっていない状況を指します。
そこで問題になるのが、その担当者の不在時に業務が滞ってしまう点です。これは、担当者ひとりだけが業務のノウハウを握ってしまっていて、会社に伝わっていないことが原因となっています。属人化していていることが判明した際は、業務標準化を導入して、早期解消を目指してください。
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業務標準化に適した職種
業務標準化とは、業務品質を均一化することですので、こうした目的と高い親和性を持つ業務があります。例えば、下記のような職種が該当します。
- ルート営業
- 総務や経理
- 製造工
ルート営業
ルート営業とは、すでに取引をしている顧客を対象としてセールス活動する業務のことです。具体的には、顧客に対して進捗報告や新商材の提案をして、会社と顧客の橋渡し的な役割を果たします。
そこで問題になるのが、顧客の損失は、会社にとって利益の損失に直結するということです。ただし、営業職の場合は、人間性や個々の能力が成果に大きな影響を及ぼす傾向にあります。業務標準化が反映されにくい側面を孕みますので、業務品質の均一化を目指すよりも、属人化を防ぐことに重きを置いて対応していきます。具体的には、取引先の情報を担当者ひとりだけが把握している状況が危険ですので、情報共有を徹底してください。
総務や経理
総務や経理のようなバックオフィスは、経営情報や契約書類といった企業の根幹を支える業務を担います。
それだけに、業務品質にムラが起こらないように業務標準化を導入すべき対象です。仮に、バックオフィス業務が属人化すると、問題発生時に経営を揺るがす事態を引き起こしませんので注意してください。
製造工
製造工とは、工場で商品を生産するための作業員のことです。主な業務としては、商品や商品を形成する部品の生産、生産物の品質チェックが挙げられます。
製造工の作業員間で業務成果に差が生じると、完成した商品の品質に直接影響を与えてしまいます。そのため、業務標準化を導入して、業務品質を担保すべき職種に該当します。
業務標準化する対象
業務標準化する際に、マニュアルを設定していきます。そして、そのマニュアル化の対象としては、下記のような要素が挙げられます。
- 作業フロー
- 情報共有システム
作業フロー
業務標準化のメインとなる目的は、従業員間で業務の成果を均一に近づけることです。そのため、すべての従業員が同一の業務フローを進行できるようにします。そこで、まずは、作業フローを明確にして、作業関係者の共有認識にします。
情報共有システム
従業員間で保有する知識に差が出ると、業務の成果に差が生じる原因になります。そこで、情報共有の仕組みを取り入れて、「あの人は知ってるけど、この人は知らない」といった情報を極力減らしていきます。情報共有の仕組みとしては、下記のようなものが挙げられます。
- 定例会議の場を設ける
- フランクに相談や質問できる場を設ける
- チャットシステムを導入する
- 教育時に研修システムを導入する
- 業務関係者が業務関連の書類にアクセスできるようにする
業務標準化する方法
業務標準化をおこなうための手順について解説します。
- 課題を抱えた業務を見つける
- 業務を精査して解決策を探る
- 作業フローをマニュアル化する
1.課題を抱えた業務を見つける
まず、問題を抱えている部署や事業を特定するために、社内でヒアリングを進めます。とくに、下記のように、属人化している業務に注目してください。
- 特定の担当者に業務が集中している
- 事業の監督者が進捗や作業フローを把握していない
- 業務量に対して作業者数が適切でない
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2.業務を精査し原因を探る
問題が浮かび上がった事業に関しては、その原因を特定するために業務を精査していきます。業務の精査は、一般的に複数の業務関係者にヒアリングして進めます。そして、その情報を基に、問題が引き起こされている原因を特定します。通常、属人化する原因としては、次のような理由が挙げられます。
- 原因1:業務量が多すぎる
- 原因2:作業フローがマニュアル化されていない
- 原因3:教育システムが整備されていない
- 原因4:情報共有の仕組みがない
3.課題を解決して業務を標準化する
課題の原因を絞り込めたら、解決作業を進めます。それぞれの原因の解決策を提示していきます。
例えば、「原因1」と「原因2」を解決するためには、まずは作業フローの見直しが必要です。その工程で、不要な作業を取り除いていきます。作業フローの見直しが完了したら、マニュアル書類を作成して、業務関係者が閲覧できるような環境を用意します。
今回の例で挙げた問題の要因に対して、下記のような解決策の例が挙げられます。
– | 解決策 |
原因1 | 作業フローを見直して、不要な作業を減らす。 |
原因2 | 作業フローを見直したのちに、マニュアル書類を作成する。 |
原因3 | 新人教育機関や担当者を配置する。 |
原因4 | 会議やチャットシステム導入など、コミュニケーションの機会を設ける。 |
業務標準化を定着させるためのポイント
業務標準化の導入に成功したとしても、それが定着しなければ意味がありません。業務標準化を定着させるためには、下記のような点を意識してください。
- マニュアルの利用を徹底する
- 従業員の意見を取り入れる
マニュアルの利用を徹底する
せっかく時間をかけて用意したのにも関わらず、マニュアルが利用されないケースが間々あります。マニュアルが利用されない原因としては、下記のようなものがあります。
- マニュアルの存在が周知されていない
- マニュアル上の作業フローに慣れていない
- マニュアル上の作業フローが不適切
マニュアルの存在が周知されていなければ、それが用いられることがありません。マニュアル導入時に、必ず関係者に告知してください。また、マニュアル導入時は、新たな作業フローに従業員が不慣れな状態です。こうしたときは、慣れているフローで作業をする従業員が出てくることがあります。しかし、こうしたことは新たな作業フローが浸透するにつれて減っていきます。
一方、そもそも、マニュアル化された作業フローやルーリングが不適切であるケースもありますので注意してください。
従業員の意見を取り入れる
業務標準化すると、マニュアルやルールを設定することになります。このマニュアルやルールの制限が多すぎると、従業員にとって負担になることがあります。
マニュアルやルールが業務効率を妨げていると判明したら、改善することが求められます。この際に、現場で働く従業員の意見や感想に耳を傾けることも大切です。
業務標準化の事例
業務標準化が採用されている代表的な事例としては、チェーン店が挙げられます。チェーン店とは、店舗で提供する商品やサービス、コンセプトをそのままに、さまざまなエリアに出店する経営業態を指します。
例えば、消費者としては飲食店チェーンを利用する時に、「いつものサービス」と「いつもの味」を期待しています。飲食店チェーン側としては、「いつものサービス」と「いつもの味」を維持して別店舗でも再現するために、業務標準化してマニュアルを取り入れることがとても重要です。そして、飲食店の現場では、マニュアルに従って作業することをオペレーションと呼び、教育を徹底しています。
とくに、飲食店チェーンの場合は、パートやアルバイトの従業員を大量に雇用し、シフト制度を採用して、店舗の営業をまわす傾向にあります。極端な話、学生アルバイトでも対応できるオペレーションを組み込むことが、店舗経営するうえで成否の大きなカギを握ります。
業務標準化のよくある質問
業務標準化に関する、よくある質問をFAQ形式でまとめています。
Q:業務標準化とはどのような意味ですか?
Answer)「属人化」です。
属人化とは、ある業務の実務や作業が少数の従業員に依存している状態を指します。そのため、属人化は、ある業務に対して誰でも同じような成果を出すことを目指す業務標準化の対義語にあたります。
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Q:業務の標準化と平準化の違いは?
Answer)業務品質に対して業務量と、均等化を図る対象が異なります。
業務の平準化とは、特定の従業員や時期に業務量が偏ることを回避するための取り組みのことです。平準化することで、無理なく業務を進行できます。
それに対して、業務標準化では、あくまで業務品質を一定の水準に保つことが目的となります。
Q:業務標準化の導入で従業員に負担がかかる?
Answer)導入時点では従業員に負担を強いることがあります。
業務標準化の導入は、いわば業務改善の一環です。従業員としては、これまでと異なる作業フローで業務を進めるため、新たな作業フローに慣れるまで負担となることがあります。
まとめ