PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの基準と手順
PMFとは、プロダクトマーケットフィット(Product Market Fit)の略であり、サービスが特定の市場に適合し、顧客の課題を解決することで市場に受け入れられている状態を指します。この概念はアメリカの起業家アンドリー・ラクレフにより命名され、その後、投資家マーク・アンドリーセンにより広められました。
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは
PMF(プロダクトマーケットフィット、Product Market Fit)とは、サービスが特定の市場に適合している状態のこと、言い換えると、顧客の課題を解決できるサービスを提供し、市場に受け入れられている状態のことを指します。
PMFの概念はアメリカの起業家であるアンドリー・ラクレフに命名され、その後、アメリカの投資家であるマーク・アンドリーセンによって広められたことをきっかけに、現在ではスタートアップや事業開発の成否に大きく影響する要素として注目されています。端的にいえば、事業を成功させるには、顧客を満足させるサービスと最良な市場を選択して受け入れられることの2つのことを満たすことをPMFしている状態といいます。
The #1 company-killer is lack of market.
Andy puts it this way:
- When a great team meets a lousy market, market wins.
- When a lousy team meets a great market, market wins.
- When a great team meets a great market, something special happens.
編集者訳:
企業を滅ぼす最も大きい要因は市場の欠落です。
アンドリーセンは次のように言っています。
優れたチームと悪い市場がぶつかった場合、市場が勝つ
悪いチームと優れた市場がぶつかった場合、市場が勝つ
優れたチームと良い市場がぶつかった場合、何か特別なことが起こる
引用:The only thing that matters(pmarchive)
スタートアップや新規事業開発チームがサービスを世に出すには、市場の課題を特定して、そのあとでプロダクトを作ることになりますが、課題を特定することそのものはそこまで難しくはありません。しかし、課題の解決が実現不可能であったり、課題解決のための解像度の向上に難しいことがあったりするため、一般に顧客の課題を解決できるプロダクトをビジネスとして成立するレベルで作り込むことは非常に難しいといえます。
プロダクトそのものがこれまでの市場に全く存在しないということもありますが、ほとんどの場合は既存サービスの置き換えがプロダクトになります。その場合、既存サービスよりも抜きん出て優れたサービスでない限り、切り替えるコストを支払ってでも使いたいというユーザーにはならないのが一般的です。
以上の問題を解消し、PMFしている状態、つまり、プロダクトが市場に受け入れられている状態というためには次の4つの条件を満たしている必要があります。
- ターゲットユーザーが明確になっていること
- 顧客の課題を解決するプロダクトが存在すること
- 顧客にとってなくてはならないものになっていること
- 収益化できていること
PMFが注目されるようになった理由
PMFの概念は2000年代から広まっていますが、日本では政府が2022年に発表したスタートアップ育成5カ年計画が1つのきっかけとなっています。日本が継続的に経済成長するためには持続的な新規事業への取り組みが必須ですが、事業を立ち上げた直後では人材と資金を集中させてシェアを拡大することが重要です。スタートアップ達成の指標としては多くの国でPMFの考え方を重視しており、日本もPMFへの関心が高まったという経緯があります。
実際、資金調達においてPMFができているかどうかという観点は非常に重要であり、Before-PMFかAfter-PMFかで資金調達の精度はまったく変わるため、Before-PMF期であればPMFを達成することを優先する必要です。
しかし、PMFが実現できればプロダクトとして完成したというものではありません。市場ニーズは常に変化があるため、顧客ニーズを捉えたサービスを継続して提供し続けることができなければ他社に顧客が流れることにつながります。顧客の課題解決ができる場合であってもtoCからtoBにピボットするというように、プロダクトを変えずともターゲットを変えることで成功するということもあるため、常に市場を意識し続ける覚悟が必要とされます。
フィットジャーニーの1つであるPMF
フィットジャーニーとは、事業アイデアの創出(R&D)からグロースするまでの道のりを示したフレームワークのことです。PMFが重要視されていますが、スタートアップや事業開発には次のようなステップを踏む必要があります。
- アイディエーション(Ideation / R&D):アイデアの創出
- CPF(Customer Problem Fit):顧客の課題が存在することの検証
- PSF(Problem Solution Fit):課題に対する解決策の検証
- SPF(Solution Product Fit):解決策のプロダクト化の検証
- PMF(Product Market Fit):プロダクトが市場に受け入れられるかの検証
- GTM(Go to Market):スケール可能かの検証
- Growth:スケールしているか
PMFの前にPSF(顧客の課題に対する解決策が見つかっている状態)が必要だと議論に挙がることがありますが、実際にはスタートアップや新規事業を世に出すには上記のようなステップが必要だあり、それぞれのフェーズで順に検証をしていく必要があります。
PMFは事業活動の最初の段階(既に収益が見込める商品が出来上がっている状態)であり、それ以前の事業開発(顧客課題を特定し、商品化するプロセス)が存在します。そのため、事業開発を行う場合には事業開発フェーズと事業活動フェーズを分け、PMFの前に何が必要なのかを明確に定めてから検証する動きが求められます。
PMFに取り組むメリット
PMFに取り込むメリットとしては次の3つが挙げられます。
- 事業成功の指標になる
- 他部門での応用が利く
- 事業撤退の基準が明確になる
事業成功の指標になる
PMFが達成されているかどうかを検証するということは、事業が成功するかどうかを検証するということです。PMFが出来ている状態というのはプロダクトが市場に受け入れられている状態ということですので、必然的に十分な収益化が見込める状態と言い換えることが可能です。
顧客ニーズや市場は常に変化がありますが、PMFが出来ている状態を維持できるということはユーザーニーズを捉えられているということですので、事業が成功する確度が高いということを意味しています。自社が他社よりも優位に立つという観点でもプロダクトが市場に受け入れられているかどうかという観点での検証は常に必要です。
他部門での応用が利く
PMFは概念ですので、セールス部門でPMFが十分にできているということは、マーケティングやHRのような別部門にも転用が可能です。セールスでもマーケティングでもHRでもターゲットの課題が何かを特定し、課題解決できるように市場に働きかけるという観点では同じことを行うことになります。そのため、1つの成功事例を他の部署でも転用することで継続的な成果創出を見込むことが可能です。
事業撤退の基準が明確になる
後述するようにPMFには達成を測る基準があります。事業の売上、ユーザー数、顧客満足度、チャーンレート(解約率)などの悪化が見えている状態での事業継続は事業だけではなく会社そのものに悪影響を及ぼしかねません。PMFの観点で定期的に事業検証をすることで事業撤退の基準が明確になり、企業リスクを抑えることが可能になります。
PMF達成の基準
PMFの達成を測る基準にはいくつかありますが、大きく次の3つに加え、エンゲージメントデータ(ユーザー数、成約数、成約頻度、利用率、継続率、継続期間などのデータ)や口コミなどを参考にするのが一般的です。
- Product/Market Fit Survey(ショーン・エリステスト)
- NPS(ネットプロモータースコア)
- リテンションカーブ
Product/Market Fit Survey(ショーン・エリステスト)
ショーン・エリステストはDropboxやEventbriteなどをグロースさせたアメリカの起業家ショーン・エリスの名前を取ったPMFの測り方です。調査方法は非常に単純であり、顧客に対して「もしその商品がなくなったらどう思いますか?」と質問をして、次の4択で回答してもらいます。
- 非常に残念
- やや残念
- 残念ではない
- 該当しない(製品を使用していない)
そして、調査対象の40%以上が「非常に残念」を選んだ場合には今後も継続して顧客を獲得できると判断でき、PMFを達成している可能性が高いというテストです。
参考:How Superhuman Built an Engine to Find Product Market Fit
NPS®(ネットプロモータースコア)
NPS®(ネットプロモータースコア)はアメリカの大手コンサルティングファームであるベインアンドカンパニーのフレッド・ライクヘルドらによって作られた顧客満足度を計測する指標です。
NPS®では、顧客に対して「その製品を友人や同僚に薦める可能性はどの程度ありますか?」と問いかけて、0〜10の11段階で答えてもらいます。この回答をもとに次のような3つに分類する手法です。
- 0~6:批判者
- 7~8:中立者
- 9~10:推奨者
このとき、推奨者(高い点数を答えた人)の割合から批判者(低い点数を答えた人)の割合を差し引いた数値がNPS®です。
ただし、明らかにPMFを達成していると考えられるプロダクトであっても低いスコアが出る場合があったり、日本では適していない調査方法であるという意見があったりするため、必ずしも正確な調査になるとは限らない点に注意が必要です。
リテンションカーブ
リテンションカーブとは、製品のリリースからリテンション率(プロダクトの継続率)がどう推移するかを見たグラフのことです。契約の継続率が高いほうがよいことはもちろんですが、リリース以降、一定の期間が経過しても下がらない(横ばいが継続)場合には市場に受け入れられている状態といえます。反対に、PMFが達成できない場合にはリテンション率は下降を続けることになるため、ユーザーの減少が止まらないという動きをします。
PMF達成の手順
PMFの達成には、事業開発としてのPSF(課題に対する解決策の検証)が終了している必要があるため、次のような手順を踏む必要があります。
- MVPの構築と市場への投入
- MVPの評価計測
- MVPの改善
※MVP(Minimum Viable Product):必要最低限の機能をもった商品のこと
MVPの構築と市場への投入
PMFを達成するためには、事業開発で得た情報を元にMVPを構築することから始まります。MVPは必要最低限の機能をもった商品を意味しますが、機能が少ないだけでは市場に受け入れられることはありません。競合や既存の製品では提供できない価値を持った試作品という意味ですので、優れた顧客体験を持った商品であり、顧客に買って試したいと思われるようなプロダクト開発が求められます。
MVPを構築したあとは市場に投入することで実際に顧客に使ってもらう必要があります。顧客の反応を確認しながらプロダクトの機能を増やし、徐々に製品の完成を目指すという流れを取ってください。
MVPの評価計測
MVPの市場投入が終わったあとは顧客からの評価を計測する必要があります。代表的な手法としてはデプスインタビュー(1対1のインタビュー)による定性分析やAARRR指標による定量分析が挙げられます。
デプスインタビューでは次のような質問を投げかけ、MVPから感じる価値、不満、要望などを重点的に確認し、作り手では気が付かない改善点を見つけることがポイントです。
- プロダクトに対して価値を感じたか
- 特に価値を感じた機能は何か
- なぜ、その機能に価値を感じたか
- 価値を感じなかった機能は何か
- なぜ、その機能に価値を感じなかったか
- このプロダクトを家族や知人に薦めたいか
また、AARRR指標では次の5つの段階に分けて計測し、次の段階に推移する顧客割合を出すことでMVPに対する改善点を見つけることができます。
- Acquisition(顧客の獲得)
- Activation(利用の開始)
- Retention(利用の継続)
- Referral(他者への紹介)
- Revenue(購入、収益の発生)
MVPの改善
定性分析と定量分析によってMVPの評価検証を実施した結果を元にPMFが達成できるようになるまでMVPの改善を繰り返します。また、PMFが達成できたとしても、プロダクトのアップデートを繰り返して繰り返しPMFを行うことも重要です。PMFを1回だけ行ったとしても、どこかのタイミングで頭打ちとなってしまい、事業成長に導くようにしてください。
まとめ