フィリップ・コトラーとは? 提唱したマーケティング理論について解説
フィリップ・コトラーはアメリカ合衆国の経営学者で、さまざまなマーケティング理論を発表したマーケティングの第一人者と呼ばれる人物です。
コトラーは、マーケティング業界でさまざまな理論を提唱している人物であり、マーケティング担当者はコトラーの取り組みを一度は調べる必要があるといえます。
フィリップ・コトラーとは
コトラーは、今でもマーケティングの最前線で活躍している人物で、マーケティングの神様や近代マーケティングの父とも呼ばれています。コトラーはさまざまなマーケティングに関する理論を発表していますが、3つのマーケティング理論を紹介します。
- マーケティングの4段階
- 5A理論
- STPマーケティング
これらのコトラーが提唱している理論は、現代でもさまざまな企業やビジネスで使われているマーケティング理論です。
フィリップコトラーが提唱した理論について
コトラーはさまざまなマーケティング理論を提唱していますが、前述した代表的な3つのマーケティングについて解説します。
マーケティングの4段階
コトラーが提唱するマーケティングの4段階は時代に応じて以下のように分けられています。
- マーケティング1.0:製品中心(1900~1960年代)
- マーケティング2.0:消費者志向(1970~1980年代)
- マーケティング3.0:価値主導(1990~2000年代)
- マーケティング4.0:自己実現(2010年~現代)
数字の部分は、どの時代を背景としたものであるかのナンバリングです。マーケティングの手法や戦略は、時代によってさまざまなトレンドが存在していることが多いです。
マーケティング1.0:製品中心(1900~1960年代)
マーケティング1.0は、製品主義とも呼ばれています。
1900年〜1960年代は、商品を大量に生産し、多く販売するという考えでマーケティング戦略を立てられることが多い時代でした。限られた予算の中で大量生産し、多くの商品やサービスを販売します。
マーケティング1.0では、顧客ニーズというよりは、どのように商品やサービスを売るのかを中心に考えられた時代であると言えます。
マーケティング2.0:消費者志向(1970~1980年代)
マーケティング2.0は、顧客主義や消費者志向ともよばれています。現代のマーケティング戦略の礎ともいえる、顧客ニーズに沿った戦略はこの時代から重要視されています。
1970年代は、徐々に経済的にも豊かになってきたことで顧客は、自分が本当に欲しくて必要なものだけを買うようになりました。そのため、多くの企業は、顧客ニーズを知るための情報取集のための施策を積極的におこないます。
マーケティング1.0のようにどのような商品を生産するかを考えるために、顧客ニーズに沿うことが重要であった時代です。
マーケティング3.0:価値主導(1990~2000年代)
マーケティング3.0は、価値を重視したマーケティングが重要であった時代と言えます。
1990年代からインターネットが普及したことにより、顧客は商品やサービスの価値を重視するようになりました。例えば、商品がどのような材料でどのように作られているかなどのストーリーが重要視されていました。
マーケティング4.0の布石のような時代で、消費者にとってどのような形で価値をもたらすのかを考えて商品やサービスの開発、マーケティング戦略を考える時代であると言えます。
さらに、ソーシャルメディアの登場により、顧客のニーズをキャッチしやすい環境が整い始めていました。
コトラーはソーシャルメディアをニューウェーブ技術と呼び、協働型ソーシャルと表現型ソーシャルの2つに分けています。
表現型ソーシャル・メディアとは、TwitterやFacebook、などのメディアです。消費者のレビューや口コミなどがメディアを通して簡単に配信可能です。企業は表現ソーシャル・メディアを利用し、低コストで情報発信がおこなえる特性をいかしたマーケティング施策として積極的に取り入れています。
協働型ソーシャル・メディアとは、食べログやWikipediaなどのWEBコンテンツです。与えられたプラットフォーム内で、ユーザーが自由に情報を発信し、さまざまな知識をプラットフォーム内に蓄積します。
消費者が簡単に情報を収集できる環境が整えられるため、マーケティング担当者は市場の意見を商品やサービス内容に反映させる必要性が発生し、消費者と共に商品やサービスの価値を創り上げることが重要であると考えられます。
マーケティング4.0:自己実現(2010年~現代)
現代を含むマーケティング4.0は、消費者へ付加価値を与えるマーケティングをおこなう時代です。例えば、有名なアスリートが使っているシューズやインフルエンサーが愛用している健康食品など、消費者が満足できる付加価値を提供する必要があります。
顧客ニーズに沿った商品やサービスを開発し、認知から購入に至るまでのプロセスで効果的なマーケティング施策をおこなうことにより、成果につなげられます。消費者にどのような自己実現をもたらすのかを考えさせるマーケティングをおこなうことが必要です。
消費者をファン化するマーケティング施策が重要であると考えられます。
5A理論
5A理論とは、消費者が購入に至るまでのプロセスを5つの心理・行動で分けて考える理論です。
- 認知(AWARE)
- 訴求(APPEAL)
- 調査(ASK)
- 行動(ACT)
- 推奨(ADVOCATE)
1.認知(AWARE)のポイント
マーケティング施策の多くは消費者の認知から始まります。認知される方法はさまざまあり、その方法によってマーケティング全体のプロセスが変化することも少なくありません。施策内容によっては、ターゲティングをおこなった後に認知を促すこともあれば、ターゲティングをおこなう前に幅広い層に認知を促すこともあります。
認知されるための方法は、オフラインやオンラインの広告や家族・友人から商品の評判や口コミなどがあります。
2.訴求(APPEAL)のポイント
認知した商品やサービスが自分にもたらす価値を消費者自身が考えるフェーズであり、商品情報や競合情報を調べます。
自問自答の段階であるため、次のフェーズと同時におこなわれることが多いです。
3.調査(ASK)のポイント
調査(ASK)とは、消費者が訴求の場面で魅力を感じた商品やサービスに対し、積極的に調べている段階のことです。
実際に購入した人の口コミやサポートセンターへの問い合わせなど、比較・検討を繰り返す段階です。近年では以下のような方法で調査をおこないます。
- SNSを使って実際に利用した人の口コミやレビューを見る
- ブログで利用者のレビュー記事を確認する
- 商品を購入した家族や友人に口コミを聞く
- 販売会社の問い合わせフォームを活用
4.行動(ACT)のポイント
行動(ACT)とは、消費者が商品に興味や関心を持って実際に購入する段階です。購入した後に利用することもこの段階にふくみます。
インターネットが普及する前は、完全オフラインのみでしたが、近年ではオンラインでも購入できます。また、購入後のアフターケアについても、重要視する消費者は少なくないため、企業と消費者の関係づくりが改めて重要となるフェーズです。
5.推奨(ADVOCATE)のポイント
推奨(ADVOCATE)とは、消費者が商品を購入した際、他の人に推奨したい場合に発生するフェーズです。
近年では、SNSやブログなどを利用することにより、簡単に情報を発信できます。消費者が推奨したいと思う商品やサービスを第三者に伝えることにより、自己実現につなげられることもあります。
企業は、商品やサービスの感想などを消費者が配信することにより、新たな消費者の認知や訴求につながるため、プラスの作用と考えられることが多いです。
フィリップ・コトラーの発表した代表的論文
コトラーはマーケティングの理論や多くの論文を発表しており、現代のマーケティングでも実際に活用されています。150以上の論文から4つだけ紹介します。
英語論文であるため難解ではありますが、興味がある方は翻訳ツールなどを利用して読んでください。
- マーケティングの概念を広げる(1969年)
- メガ・マーケティング(1986年)
- マーケティング・マインドの追求(2004年)
- 撤退のマーケティング戦略(2015年)
マーケティングの概念を広げる(1969年)
コトラーとシドニー・J・レヴィの共著による論文(Broadening_the_Concept_of_Marketingマーケティングの概念を広げる)は、学術的にマーケティングの概念を拡張し、世の中に広めた有名な論文です。
マーケティングが企業だけで使われるものではなく、多くの組織運営・マネジメントで使われるものであることが示されています。
メガ・マーケティング(1986年)
規制が厳しい市場において、効果的なマーケティングをおこなう方法として、6つの言葉が重要であると説いた論文です。
- 製品(Product)
- 価格(Price)
- 場所(Place)
- 販促(Promotion)
- 政治的権力(Power)
- 広報活動(Public Relations)
マーケティングにおいて直接関係のある4つのPだけでなく、政治的権力や周囲の理解など、関係組織と協力する重要性について書かれています。
メガ・マーケティングは市場戦略論というコトラーの本に掲載されています。
マーケティング・マインドの追求(2004年)
マーケティングの定義を改めて確認する必要性を説いた論文です。
商品やサービスの希少価値が低下する現代において、過去の思考の延長でしかマーケティングを捉えられないことに苦言を呈しています。
社会情勢に対応するマーケティングについて、顧客思考と社会思考が同時実現されておらず、別々の活動として考えられていると示しています。
改めてマーケティング・マインドの原則に立ち帰る必要性を提唱している論文です。
撤退のマーケティング戦略(2015年)
既存製品のマーケティングよりも、新製品や新サービスを多く市場に送り出すことばかりに力を入れることは、チャンスを広めることにつながらないと説いた論文です。
また、衰退する製品の抽出方法や撤退の意思決定に関する評価基準やプロセスなども掲載しています。こちらも『市場戦略論』という書籍の中に収録されています
フィリップ・コトラーに関するおすすめ書籍・動画
コトラー自身のことやマーケティングについて調べる場合におすすめの書籍や動画を紹介します。
- 市場戦略論(書籍)
- コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則(書籍)
- 【図解解説】フィリップ・コトラーのマーケティング0~4.0(YouTube)
市場戦略論(書籍)
この本はコトラーの論文が多く掲載されており、マーケティング担当者におすすめの本です。前述したとおりコトラーの論文は英語論文であるため、読むだけでそれなりの労力が必要ですが、市場戦略論では日本語で論文内容が解説されています。
コトラーのマーケティング理論に興味がある方は読んでください。
コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則(書籍)
現代のマーケティング理論であるマーケティング4.0に関する本です。マーケティング3.0の価値主導からマーケティング4.0の自己実現へ進化し、この流れをどのようにビジネスに取り入れるのかなどを解説しています。
現代のマーケティング手法で重要な用語についての解説も掲載されているため、いつでも読み返せる本として利用できます。
【図解解説】フィリップ・コトラーのマーケティング1.0~4.0(YouTube)
コトラーが提唱するマーケティング4段階について、図を利用して解説している15分の動画です。マーケティング4段階を中心にコトラーについて解説しているため、コトラーの概要を知りたい方におすすめの動画です。
コトラーについて調べる導入のような解説であると考えてください。
まとめ
フィリップ・コトラーは現代でも使われているマーケティングの概念を多く生み出し、広めた人物です。顧客のニーズと社会情勢を一体的に捉えたマーケティングをおこなうことが重要であると提唱しています。現代では時代が加速度的に進化しており、時代の流れと顧客ニーズを別々に考えてしまうことがありますが、全て一体的に考えることにより、質の高いマーケティングをおこなえます。マーケティング担当者は、コトラーの人物像や論文について調べることにより、筋の通ったマーケティング戦略を考えられます。