ニューロマーケティングとは?注目される理由やメリット、最新事情などを解説
近年、ニューロマーケティングという言葉をよく耳にしませんか。「また新しいマーケティング手法か」と思われるかも知れませんが、これは従来のマーケティング手法を否定するものではありません。
むしろここから得られる知見を現在のマーケティングに活かすことで、さらなる収益拡大に結びつけることができます。
ニューロマーケティングとは
ニューロマーケティングとは、脳神経科学や心理学を広告・顧客調査などの分野に応用する手法です。脳の活動や生理指標など、顧客が無意識で起こす変化を捉えることによって新しい知見を得ることを目指しています。
平たくいえば、顧客が気づいていないような深層心理を明らかにして、それをマーケティングに活用しようというものです。ただし、ニューロマーケティングの活用には、脳波などを測定するfMRIなどの大がかりな装置が必要です。
近年注目を集めている理由
従来、顧客調査と言えばアンケートやインタビューをおこない、顧客から直接言葉をとおして聞き取ることがメインでした。
しかし、このように顧客からの言葉を頼りにした新商品の開発は、必ずしもヒットしません。事実、各界の著名人達は次のように述べています。
- 人間は、自分自身の意識の5%しか意識しておらず、残る95%のほうがわれわれの行動に関係している(ZENT開発者ザルトマン)
- 調査で困るのは、人は感じることと考えること、考えることと言うこと、言うことと行動が違うということだ(オグルビーアンドメイサー創設者デビット・オグルビー)
- 消費者は賢い。しかし同時に消費者は自分ではどんなものが欲しいのか分からないし答えられない(元アップル社CEOスティーブ・ジョブズ)
各企業が従来の顧客調査では限界を感じ、より確度の高い顧客理解を求め、その期待に応える形でニューロマーケティングへの関心が高まっています。
ニューロマーケティングの誕生と進展
ニューロマーケティングはどのように生まれ、進展してきたのでしょうか。
ニューロマーケティングを実施するには、脳波などを測定する機器の開発が欠かせません。脳波の研究自体は1980年代頃からおこなわれ、fMRIなとが本格的に活用できるようになったのは2000年以降です。
そのため、ニューロマーケティングの始まりは2000年以降です。以下、これまでのニューロマーケティングの主な進展をご紹介します。
コカコーラvsペプシコーラのブランド研究(ベイラー大学)
2004年ベイラー大学で神経scientistリード・モンタギュー氏らが研究をおこないました。fMRIを利用して、コカコーラとペプシコーラとのブランド比較を行っています。
欧米でのfMRIを用いた製品評価
2006年には、英国ニューロセンス社などが主導し、fMRIを用いて商品や広告に対しての評価、五感刺激の効果調査などをおこなっています。
ホンダがバイク開発に応用
2006年には日本企業のホンダが安全性の高いバイクを開発するためにニューロマーケティングの知見を取り入れています。顔ニューロンという神経回路がどう反応するのかを実験で観察し、事故を防ぐためのデザインを取り入れています。
博報堂とガンバ大阪がエンゲージメント向上に役立てる
2008年には熱狂的なファンを持つサッカーチーム・ガンバ大阪が広告会社の博報堂とともにニューロマーケティングの手法を用いて調査しています。消費者のエンゲージメントの形成プロセスをfMRI、EEGなどを用いて確認しています。
日本でニューロマーケティング研究会開催
2009年には公益社団法人・日本マーケティング協会主催のニューロマーケティング研究会が開催されています。日本のマーケターの中でも関心が高まっています。
ニューロマーケティングのメリット
ここではニューロマーケティングのメリットについてお伝えします。
顧客の言語化できない感情を理解できる
アンケートなど、従来の顧客調査では人がとる行動の意味を正確に理解することができませんでした。
例えば、あるチョコレートを購入した顧客に、なぜその商品を選んだのかということをインタビューしても正確な答えは返ってきません。人は自分の行動の意味を必ずしも正確に把握しているわけではないからです。
一方、ニューロマーケティングは顧客の言葉を介さず、生理的変化や脳の働きを調査します。そうすることによって、人が無意識のうちにどのような感情や判断をしているのかを正確に掴むことができます。
リアルタイムの変化を知ることができる
顧客の心理や考えは、刻一刻と変化していきます。そのため、従来の調査ではリアルタイムの心理的変化を読み取ることができませんでした。
例えばあるCMを観てもらったあとで感想をインタビューしても、それはあくまでも、その時点での振り返りでしかありません。あとから思い返せばこういう印象だったというものでしかないのです。
しかし、現実的には人の感情や判断というのは、その都度変化しています。ニューロマーケティングを使えば、リアルタイムで顧客の心理や判断がどう変わっていくのかを正確に掴むことができます。
心の動きを視覚化できる
ニューロマーケティングの実施には、さまざまな機器を利用します。
例えば、EEGという装置を使えば、グラフで脳の活性化状態を確認することができます。また、fMRIなら脳の血流量がどう変化したかを視覚的に確認することができます。
このように機器を利用することで、今まで見えなかった心の変化を視覚的に捉えることができます。
ニューロマーケティングで活用する3つの指標
ニューロマーケティングを実施する際には、主に次の3つの指標を重視します。
生理指標
生理指標とは、脳波や心拍数、血圧などのことです。意識的にコントロールすることができないものですが、こういったものを検査することで顧客自身が気づいていない緊張・喜び・不安などの感情を知ることができます。
行動指標
顧客の視線の動きや商品を手にするまでの時間など、表面的に表れる行動を調査します。コンビニエンスストアなどの商品陳列や広告レイアウトなどに活用できます。
主観指標
従来のアンケート調査などの主観的なデータとニューロマーケティングを組み合わせた指標です。複合的な分析をおこなうことで精度を高めています。
ニューロマーケティングの調査方法
ニューロマーケティングには、さまざまな調査方法があります。これらの方法を用いて、生理指標や行動指標、主観指標のデータを分析します。
アイトラッキング
アイトラッカーとアイカメラを使って目線や眼球の動きを捉えます。被験者がどこをどのような順番で見たのかを観察したり、どの程度長く凝視していたかなども確認できます。主に行動指標のデータとして活用します。
エスノグラフィー
被験者の行動や挙動を文化人類学的な手法を用いて観察・計測し、無意識の挙動や行動についての洞察をおこないます。商品の改善に役立てられたり、顧客が意識していないニーズを把握するのに有効です。主に行動指標のデータとして活用します。
ZMET
心理学を応用した特殊なインタビューで、被験者があるテーマに対して深層で知覚しているメタファーを抽出することができます。人はメタファーやイメージを通して思考しているという前提に基づいた手法です。連想と購買がどう結びついているのかなどを分析し、購買意欲促進に活用できます。主観指標などに利用されます。
レスポンス・レイテンシー
被験者が質問に答える際、どの程度の時間を要しているのかを計測し、被験者の本音と建て前を見極めます。例えば、質問の返答時間が短いほどリピーターになりやすい顧客であるなどのように判断します。主に主観指標のデータとして活用されます。
EEG
被験者の頭や手、肩などに電極を装着し、映像などの変化のある視覚刺激を提示します。その後、刺激に対するリアルタイムでの脳波を測定します。認知の負荷やリラックス度、気分など、幅広く測定が可能です。生理指標のデータとして使用します。
fMRI
弱い電磁波を体に当てることで、脳活動を調べる方法です。視覚・触感・聴覚などの刺激を提示し、刺激に対する脳血流の変化を計測します。例えば、商品を手にしたときの脳の働きを調べ、活動量を定量化することが可能です。主に生理指標のデータとして使用します。
ニューロマーケティングの活用事例
ここでは、ニューロマーケティングを利用した活用事例をお伝えします。
テレビCM「コーラ」に対しての興味・関心
オーストラリアのニューロインサイト社がコーラのCMに対してどの程度の興味・関心度をもっているのかについて、ニューロマーケティングを活用して調査しました。
CMの中に、筋肉質な男性が現れる場面があるのですが、アンケート調査ではこの場面に興味を持ったという人はほとんど存在しませんでした。
一方、ニューロマーケティングのEEG調査をおこなったところ、多くの女性がこの場面で興味を抱いていることが判明したのです。このようにニューロマーケティングでは、顧客が告げてくれない知見を教えてくれます。
ハーレーとガンバ大阪のブランド意識の違い調査
博報堂はブランド形成やエンゲージメントがどう形成されているのかを調査しました。対象となったのは、ハーレーダビッドソンのオーナーとガンバ大阪のファンです。
それぞれの被験者に対して数タイプの画像素材を見てもらい、脳の働きにどのような違いが見られるのかを確認しました。すると、ガンバ大阪は、チームに関する画像を見たとき意思決定に関する脳の部位が活性化していることを確認できました。
一方、ハーレーダビッドソンのオーナーは、ブロードマンの6分野と呼ばれる部位が活性化しています。
ガンバ大阪のファンはチームに関連する画像を見たとき、倒すべき敵をイメージし競争意識が増したことを意味し、ハーレーダビッドソンのオーナーは、自分が実際にバイクに乗ったり、イベントに参加しているかのような一体感を感じていたことが推測できます。
このように、ファンが対象の企業やチームに対して、どのようなイメージを抱いているのかによって、ブランド構築の方向性が大きく変わります。
ニューロマーケティングの課題
顧客調査に伴うさまざまな情報を知ることができるニューロマーケティングですが、課題もあります。そこでここでは、ニューロマーケティングの問題点についてお伝えします。
倫理的な側面に配慮しなければいけない
脳の活動などから人の感情を読み取ることには、倫理的な問題が伴います。1990年代におこなわれたサブリミナル広告のように、人の心を操作することになるのではないかという懸念があったり、洗脳のような形で悪用されるのではないかという心配の声があがっています。
こういった懸念に対しては現在、下記のようなガイドラインが検討されています。
- リサーチ業界の倫理規定に準じた調査活動
- 高い信頼性と経験を持つ専門機関の選定
- 個人プライバシーを最大限に配慮した対応
従来のリサーチ会社との対立
ニューロマーケティングが世の中に広まった当初は、インタビューなど従来の調査方法が無意味であるというような発言が多く見られました。そのため、大手調査会社ニールセンやミルウォールド・ブラウンなどと、新設されたニューロマーケティング会社との対立が生まれました。
しかし、現在は従来の調査方法とニューロマーケティングを融合して活用していこうという機運が生まれ、提携が進んでいます。
ニューロマーケティングの未来
ニューロマーケティング技術が進歩して身近になるにつれてより多くの企業がニューロマーケティング手法を採用するでしょう。ニューロマーケティングの活用は実際、世界的に拡大しています。
とりわけ、大手の広告・調査・コンサルティング会社などで導入が進んでいます。
ニューロマーケティングの手法で、顧客の感情、意見、認識に影響を与えることで、顧客体験にプラスの影響を与えることができます。また、仮想現実 ( VR ) は、将来的にニューロマーケティングの重要な部分になると予想され、VR ヘッドセットを EEG デバイスと組み合わせれば、神経学的データを収集することができます。
ニューロマーケティングを実施するボトルネックは、大がかりな測定機器が必要なことです。そのため今後、測定機器の進歩や低コスト化などが進めば、一気に拡大すると考えられます。
現在、ポータブルなEEGやアイカメラなど、新しい測定機器の開発も始まっていますので数年後には多くの企業で導入が進む可能性があります。
まとめ