インサイトとは?マーケティング活動の鍵を握る消費者の本音
インサイトとは、消費者が無意識に持っている本音や感情のことです。マーケティング活動をおこなううえで、消費者のインサイトを把握し、新しいサービスを生み出したり、訴求方法を変えていくことで消費者の獲得につなげることができます。
インサイトとは
インサイト(insight)とは物事の本質を見抜く力を意味しており、マーケティング活動におけるインサイトの意味としては、消費者自身も認知していない隠れた心理を指しています。多くのマーケティング担当者が消費者のインサイトを知り、それをもとに施策を立てたいと思っています。
マーケティングにおけるユーザーインサイトが重要な理由は次の2つの観点からです。
- 消費者は無意識の内に判断しているから
- 競合との差別化
消費者は無意識の内に判断しているから
消費者は自分自身で欲求を正確に把握したり、行動の理由を説明することはできないといわれています。ハーバード大のジェラルド・ザルトマン博士は思考や行動のうち、意識的におこなわれているのは5%に過ぎず、残りの95%は無意識でおこなわれている、と発表しています。
マーケティング活動において重要である消費者が製品やサービスを購入した理由や評価のポイント、どのような価値提供を求めているかなども、顕在化している部分を分析するばかりでは本音の部分は見えてこないのです。
競合との差別化
現在、あらゆる市場において競争が激化しています。消費者の顕在ニーズを捉えただけの製品やサービスは既に誰かが生み出しており、売り出しても売れない時代となっています。
だからこそ、消費者自身も気づいていないインサイトを捉えて狙った、新しい価値を生み出すことが求められます。まだ世の中に存在しないが、その製品、サービスを見たときにこれが欲しかったものと言わせるものを開発する、その手がかりがインサイトです。
インサイトと潜在ニーズの違い
インサイトは似た意味である潜在ニーズと混同されることがありますが、少し異なります。
潜在ニーズとは
潜在ニーズとは欲求があるが、消費者自身が気付いていない状態を指します。例えば、「痩せたい」という消費者自身が認識していて、望んでいる顕在ニーズがあるとします。なぜ痩せたいのかさらに掘り下げていくと、おしゃれな服が着たい、モテたいといった消費者自身が見えていなかった潜在ニーズが見えてきます。
一方でインサイトは潜在ニーズよりもさらに深い無意識の領域にあり、そういった欲求さえない状態のことを指します。
ニーズとウォンツの違い
ニーズとウォンツの違いは、人の行動の目的がニーズ、目的を満たすための手段がウォンツという関係性の違いがあります。例えば、水を買うという行動をニーズとウォンツで考えてみます。
喉が渇いた | 喉の渇きを解決できていない状態・喉の渇きを解決したい欲求 | ニーズ |
水を買う | 喉の渇きを解決してくれる「水」が欲しい | ウォンツ |
マーケティング活動において、ニーズとウォンツはどちらもお客様が行動を起こすモチベーションになっており、重要な要素となっています。
消費者インサイトを活用した成功事例
実際に消費者インサイトを活用し、マーケティング施策をおこなった事例を紹介します。
ファブリーズの事例
ファブリーズは販売当初、日常の嫌なにおいを消すというメッセージで商品を売り出していましたが、売上が上がらずむしろ縮小していくばかりでした。そこでマーケティングチームが消費者を訪問し調査を実施したところ、ペットを飼っている家庭はペットの匂いが気にならず、タバコを吸う家庭もタバコの匂いが常習化し気にならないことが判明しました。
さらにファブリーズを使用する多くの消費者が掃除後のご褒美や祝福のような気分で使用していることがわかりました。その結果、ファブリーズは掃除を終えたご褒美や日常にフレッシュな香りを加えるというメッセージで商品を売り出し、V字回復に成功しました。
和定食チェーン店大戸屋ごはん処の事例
和定食チェーン店大戸屋ごはん処はビル地下や2階以上に店舗を構えていることが多く、実はこれはインサイトをもとに考えられた戦略です。
元々大戸屋ごはん処には男性客が多かったのですが、女性顧客を獲得するために女性は一人で外食することが苦手という意見を深掘って調査しました。その結果、女性客は一人で外食することに抵抗があるのではなく、一人で店に入るところを見られることが嫌だというインサイトが存在することがわかりました。
そのため、集客するうえでは弱いとされるビル地下や2階以上に出店することで、ターゲットである女性の一人客の支持を集めました。
参考:大戸屋が愛される理由 野菜メニュー豊富で女性客を意識(マネーポスト)
消費者インサイトを捉えることがむずかしい理由
消費者インサイトを捉えることがむずかしい理由は主に以下3つです。
- 消費者から直接聞き出すことができないから
- インサイトはマーケターが作り出すものだから
- マーケターによって導き出すインサイトが変わるから
消費者から直接聞き出すことができないから
消費者インサイトとは消費者が無意識に抱いている本音や感情のため、消費者本人に直接インサイトを聞き出そうとしてもその人が答えることができないのです。もし発言の中にインサイトらしきものが出たと思っても、本人が認識して言語化している以上、インサイトではないのです。
インサイトはマーケターが作り出すものだから
インサイトは調査する側があらゆる調査データや情報をもとに、これがインサイトではないかと仮説立てして市場に生み出していく必要があります。
元々インサイトという言葉にも物事の本質を見抜くという意味があります。本質を見抜くことができるのは消費者ではなく、マーケティング活動をおこなう側です。
マーケターによって導き出すインサイトが変わるから
インサイトを知るための情報は消費者の発信した言葉や行動、生活環境などの定性情報です。こういった情報をもとに何を捉え、どのように解釈するのか、それはマーケターごとに異なります。そのため、定性調査を行った後のブリーフィングやワークショップを実施し、会社として1つの答えを導き出すことが非常に重要です。
インサイトの理解がSEOに重要な理由
インサイトを理解することはSEO対策を実施するうえでも役に立ちます。
ユーザーにささるコンテンツを作成できる
SEO対策においてユーザーの検索意図を把握し、それを解決できる記事を作ることが非常に重要です。インサイトを導き出すことで、ユーザーが本当に望んでいる答えを導き出せるコンテンツを作成することができます。
インサイトを得るための方法
消費者の無意識化に眠るインサイトを知ることは、マーケティング活動を行ううえで有利となります。しかし、インサイトは消費者に聞いても本人の口からは答えは出てきません。
インサイトを発見するためには、主に以下の3つの手法が有効といわれています。
- ソーシャルリスニング
- グループインタビュー
- デプスインタビュー
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングとは、主にSNSを中心に消費者の投稿内容を収集して、分析する方法のことです。SNSは匿名でも発信することができるので人には言いづらいような本音を見ることができます。
グループインタビュー
グループインタビューとは、5~10名程度の調査対象者を集めて座談会方式でインタビューをおこなう方法で、参加者に商品やサービスに対する感想などについて質問していきます。
ウェブや紙のアンケートでは読み取れないような参加者の生の声も聞き取ることができるだけでなく、参加者同士で意見交換をして触発されるので、参加者が想定していなかったような意見からインサイトを発見することができます。
デプスインタビュー
デプスインタビューとは、対象者と1対1で時間をかけてインタビューを行う方法です。デプスインタビューは、1対1での会話形式でおこなわれるためグループインタビューでは聞きづらい質問をすることができます。
インサイトを理解するために
本記事ではインサイトの概要から見つけるための方法について紹介してきました。もっと深く理解したいという方向けにおすすめの書籍を紹介します。
「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方
著者が600件以上の案件で培ったインサイト発見の方法論を解説した書籍です。実証例にもとづいて、属人的になりやすいインサイトを発見するためのフレームワーク、方法を体系的に解説している点が特徴です。
売れなくなっている製品・サービスを再生したい、今までにないイノベーションを起こす事業を開発したいと考えるマーケティング担当者にぴったりの書籍です。
タイトル | 「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方 |
著者 | 大松 孝弘
波田 浩之 |
出版社 | 宣伝会議 |
出版年 | 2017年 |
金額 | 1650円 |
インサイト
ここ数年で注目を集めている消費者行動学、消費者心理学をもとに消費者インサイトの重要性を説いた書籍です。
消費者自身が自覚すらしていないインサイトの見つけ方、活かし方がハーゲンダッツ、シックなどの実例を交えて解説されています。
消費者の心理がわからなくなったと感じているマーケティング担当者にとってこれまでの消費者調査やブランディングを再考するのに役立つ書籍です。
タイトル | インサイト |
著者 | 桶谷 功 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
出版年 | 2005年 |
金額 | 1760円 |
「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング
インサイトの発見の仕方を実践トレーニングというにふさわしい具体的な形でわかりやすく解説した書籍です。インサイトを見つけて活用する方法をセンスやひらめきに頼ることなく実践できるようになります。
マーケティング担当者にとってインサイトの発見、活用は必須のスキルであるといえます。そのため全てのマーケティング担当者に一読してほしい実践書です。
タイトル | 「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング |
著者 | 桶谷 功 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
出版年 | 2008年 |
金額 | 1760円 |
まとめ