インバウンドのメリットとデメリットを解説。企業のとるべき対策は?
インバウンドとは、海外から訪れる旅行者を受け入れ、国内でサービスや商品を提供する活動のことです。近年、インバウンドは大幅に増加しており、日本政府観光局によると2024年10月の訪日外国人旅行者数は単月過去最高の331万人(前年同月⽐では 31.6%増)を記録しました。
観光業におけるインバウンドの概念
インバウンドとは、外国人が観光などの目的で自国を訪れることを指します。インバウンド観光が増加すれば、外国人旅行者が宿泊施設や交通機関、飲食、お土産、観光体験などにお金を使い、その国の経済に大きく影響します。例えば、雇用の創出やビジネスチャンスの拡大、地域産業の活性化などが挙げられます。
参考ページ:インバウンドとアウトバウンドとは?言葉の意味や違いを徹底解説!
インバウンドが増加するメリット
インバウンドの増加は、地域や国全体に多くのメリットをもたらします。例えば、経済の活性化や雇用創出、外貨の獲得といった直接的なものに加え、異文化理解など間接的なものも期待できます。そこで、具体的なメリットを1つひとつとりあげ詳しく解説します。
地域経済の活性化
海外からの旅行者は、その地域にある飲食店、土産物店、宿泊施設などを利用します。 例えば、地方の旅館に宿泊したり、地域の特産品を購入し、直接その地域の経済に貢献します。このような観光客の購買行動が、地方の店舗での売上増加につながり、雇用創出や税収増加などの波及効果をもたらします。
雇用創出
インバウンドの増加は、観光産業やその関連産業での雇用創出につながります。例えば、宿泊施設や交通機関、飲食店、土産物店など、さまざまな観光関連サービスの需要が高まり、それに伴い人員を増やす必要性が生じます。実際、株式会社帝国データバンクの調査によると、旅館・ホテル業の企業のうち65.3%、飲食業の企業のうち59.8%が人手不足を感じていると報告されており、この状況は観光需要の増加に伴う影響の一端といえます。
参考ページ:人手不足に対する企業の動向調査(2024年7月)
外貨獲得
インバウンドが増加すると、海外からの旅行者が日本でさまざまな購買行動をとります。そのため、国や地域にとって外貨獲得の大きな機会となります。
事実、国土交通省観光庁による『訪日外国人消費動向調査(2024年1-3月)』では、訪日外国人旅行消費額は1兆7,505億円に達しており、これは1人あたり20万9千円を支払っていることになります。項目別に見ると、宿泊費が32.1%、次いで買物代29.2%、飲食費21.7%の順となります。このようにインバウンドは、観光産業や関連業界に多くの外貨をもたらします。
参考ページ:訪日外国人消費動向調査 – 観光庁
異文化理解の促進
インバウンドの増加は、異文化理解を促進するというメリットをもたらします。海外からの旅行者が増加すれば、地域住民は異なる文化や価値観を持つ人々と接する機会が増え、新たな視点をえるきっかけになります。
例えば、旅行者が飲食店を利用した際には、店員と観光客との間にコミュニケーションが生まれ、それが異文化を学ぶ機会になります。また、観光地やイベント、宿泊施設での交流も、地域住民にとって異文化への理解を深める貴重な場となるはずです。
国際的なイメージ向上
海外からの旅行者は、日本での観光体験を通じて、地域の魅力を直接感じることになります。そして、旅行後には、その経験をソーシャルメディアなどを通じて、世界に向けて発信します。
魅力的な写真や動画、旅行体験記などが不特定多数の人と共有されることで、これまで日本について知らなかった人々に、新たな魅力が伝わります。結果として、日本の認知度向上やポジティブなイメージの促進に役立ちます。
観光インフラの整備が進む
交通や宿泊施設、観光案内、多言語対応などのインフラ整備が進むことも、インバウンド増加によるメリットの1つです。インバウンドが増加すれば、国全体にとっても大きな収入源となるため、政府は道路や空港などの交通網の整備や、観光案内所の充実、多言語対応の強化など、観光客の受け入れ環境を改善するために多くの予算を投じます。
地域魅力の発見
国内の住民にとっては当たり前の風景や文化であっても、海外からの旅行者にとっては新鮮に映ります。例えば、地元民にとっては当たり前の伝統工芸品でも、外国人観光客が感動することがあります。このような姿を目の当たりにすることで、住民は自分たち地域の魅力を改めて認識し、誇りを持てるようになります。
インバウンドが増加するデメリット
インバウンドの増加は、多くのメリットをもたらす一方で、地域や産業、環境などにさまざまなデメリットを引き起こす可能性もあります。観光客の増加による環境公害や交通渋滞などがその代表例です。そこでインバウンド増加に伴うデメリットを整理してお伝えします。
季節変動による不安定な収入
観光産業自体、元々季節変動の影響を大きく受けます。そのため、インバウンドに依存しすぎると企業の収入が不安定になることがあります。例えば、スキーリゾート地などは冬に観光客が集中するため、他の季節は収入が大きく減少するなどのことが挙げられます。また、気候条件によって観光客数は変動するため、同じ季節でも昨年と大きく収入が変わるなどのことも生じます。
人材不足
観光産業は、接客やサービス提供などを人が直接おこなうため、多くの人材が必要です。一方で、若者の都市部への流出や労働人口の減少などにより、地方の観光業は人材確保が困難な状況が続いています。インバウンドの増加によって観光客の需要が高まっても、それに対応できる十分な従業員数を確保できない場合、サービス低下や労働条件の悪化などに波及します。
環境公害
あまりにも観光客が集中すれば、環境公害を引き起こす可能性があります。例えば、多くの観光客が押し寄せることで騒音被害が出たり、ゴミを捨てたりすることで地元の生活環境が悪化するなどのことが挙げられます。
また、観光客の移動による交通渋滞や、宿泊施設増加に伴う自然破壊なども懸念されます。特に、自然や景観を目玉としている観光地では、環境への負荷が大きくなりやすく、そこに住む生態系に悪影響を及ぼすなどのことも生じます。
参考ページ:環境と観光の両立のための持続可能な観光客受入手法に関する調査 – 国土交通省
インバウンド対策が企業にとって重要な理由
ここまでインバウンド増加のメリットとデメリットを見てきました。その両方を踏まえ、企業が発展するためには、適切なインバウンド対策を進めることが肝心です。
海外からの旅行者をターゲットにした戦略を展開することで、国内市場だけではえられない成長機会を手にすることができるからです。そこで、インバウンド対策の重要性について、ポイントをとりあげ解説します。
収益の増加
インバウンド対策をとることは、企業が収益増加を果たすために大いに役立ちます。海外からの旅行者は、国内旅行者に比べて過ごす期間が長く、宿泊費や飲食費、ショッピング、エンターテイメントなど、さまざまな体験に多くの費用をかけることが多いからです。そのため、企業がインバウンド対策を強化すれば、海外からの旅行者を顧客として獲得でき、国内旅行者だけをターゲットにするより収益を増やすことができます。
新市場の開拓
企業は、海外からの旅行者をターゲットとした、国内向けとは異なった商品やサービスを開発する必要性も生じます。こういった海外顧客獲得への動きは、企業の新市場開拓につながり、収益の多角化を図ることができます。
具体的なインバウンド対策
インバウンド対策を講じ、ビジネスの成長を促進することは、企業にとって重要課題の1つです。しかし、具体的に何から手を付ければ良いのか分からないことも多いのではないでしょうか。そこで、WEBサイトの多言語化や旅行関連会社との提携など、さまざまな具体策をとりあげ整理しておきますので、自社で実践できることから始めてください。
WEBサイトの多言語化
インバウンド対策を始めるうえで、初期の段階に進めたいことの1つは、WEBサイトの多言語化です。多言語化によって、海外からの旅行者は母国語で情報をえられるようになり、日本に訪問したときの商品やサービスへの関心が高まります。多言語化されたWEBサイトがあれば、旅行者は安心して予約やチケット購入をおこなうこともでき、企業はより多くの海外顧客を獲得できます。
参考ページ:多言語サイトで集客するには?知っておきたい基本を解説
旅行関連会社との関係構築
より大きな収益を確実にえるには、旅行関連会社との関係構築が重要です。旅行会社は、世界中の旅行者とつながりを持っているため、その販売網を活用すれば、多くの旅行予定者に自社商品を認知してもらえます。特に、近年はさまざまな特徴を持った旅行会社が登場しているため、自社のターゲットとマッチした企業と連携することがポイントです。具体策としては次のものが挙げられます。
1.共同で旅行パッケージを販売
旅行会社と協力して、自社商品を含んだ魅力的な旅行パッケージを開発。旅行会社の販売網を通じて告知することで、利益率も高めることが可能です。
2.旅行会社WEBサイトでオンライン販売
旅行会社が運営するWEBサイトや予約システムに自社商品情報を掲載し、オンラインで販売を促進できます。
海外ターゲットに合わせた商品開発
国内で販売している商品・サービスが、そのまま海外の旅行客に受けいられるとは限りません。そのため、海外向けの新たな商品開発をする必要があります。商品開発の際には、海外市場のニーズや嗜好を深く理解し、それに合わせた商品設計をおこなってください。
例えば、日本人向けの醤油は塩分が高いと感じる外国人が多いため、低塩タイプに改良したり、欧米でよく販売されているグルテンフリータイプのものを開発するなどのことが挙げられます。
ソーシャルメディアの活用
ソーシャルメディアの活用も、インバウンド対策として重要です。多くの旅行者は、計画段階からソーシャルメディアを活用して日本の情報収集をおこなっています。そのため、自社自ら写真や動画などのコンテンツを共有することが肝心です。
ソーシャルメディアを効果的に活用することで、多くの潜在顧客にリーチでき、実際に来日した際、自社サービスや商品購入につなげることができます。また、ソーシャルメディアでは、旅行者からの質問やコメントに素早く対応し、観光の前後で顧客とのエンゲージメントを高めることもポイントです。
参考ページ:ソーシャルメディアマーケティングの種類や施策、成功事例3選を紹介
よくある質問(Q&A)
ここでは、インバウンドに関するメリットや対策などについて、いくつかの代表的な質問をとりあげお答えします。自社でこれから海外顧客をターゲットにビジネスを始めるのであれば、細部までご確認ください。
Q:対策として、デジタルマーケティングは重要ですか?
Answer)情報発信という点で、デジタルマーケティングは重要です。WEBサイトやソーシャルメディアを通じて、企業は自社の商品や地域の魅力を世界中の旅行者に発信することができます。特に、WEBサイトの多言語化は、海外旅行者にとって重要なため、真っ先に取り組みたい施策の1つです。
参考ページ:デジタルマーケティングとは?基本から施策方法までを解説!
Q:WEBサイトの多言語化をどう進めれば良い?
Answer)WEBサイトの多言語化を進めるには、最初にどの言語に対応させるのかを検討してください。ターゲットとなる国で使用される言語を調べることが先決です。また、短期的には、多言語対応が可能なCMS(例:WordPress)を利用すれば、すぐに複数言語でWEBサイトを運用できます。しかし、機械翻訳となるため、不自然な表現が多く使われます。
そのため、中長期的には、専門の翻訳者や現地のネイティブによる多言語化を進めてください。特に、現地の習慣や価値観を理解している人材によって、翻訳されることが望ましいです。
参考ページ:多言語サイトの作り方~役立つWordPressのプラグインもご紹介~
Q:口コミも配慮した方が良い?
Answer)インバウンド対策に口コミは大きな影響を与えます。旅行者は、他の旅行者の経験や感想にもとづいて旅行先やサービスを選択する傾向が強いためです。特に、ソーシャルメディアやレビューサイトを通じて共有される口コミは、旅行者の意思決定に大きな影響を与えると考えられます。そこで、質の高いサービスを提供することはもちろん、顧客への口コミ促進キャンペーンなどをおこなうようにしてください。
Q:観光オフシーズンの対策は?
Answer)観光オフシーズンであっても、いくつかできる対策があるので具体例を紹介します。
1.ターゲットを絞り込んだプロモーション
シニア層や学生などは、オフシーズンに旅行することがあります。そういったターゲット層に焦点を当て、プロモーションを展開してください。例えば、シニア層向けには、健康促進や自然体験をテーマにしたものを、学生向けにはリーズナブルな価格設定の旅行プランの提案などが挙げられます。
2.デジタルマーケティングの活用
WEBサイトやソーシャルメディアを通じて、オフシーズンの魅力を発信します。オフシーズンならではの体験やイベント情報を伝えることで、旅行者にあらたな魅力を伝えます。
まとめ