顧客起点マーケティングとは?実施手法や事例、注意点を解説!
ABテストや動画マーケティングなど、Webマーケティングの手法を積極的に取り入れて施策をおこなっているWEB担当者は多いと思います。
しかし、そういった最新手法を取り入れることに積極的になるほど、企業側視点に陥りがちなことがあります。そうならない為に、マーケティングは顧客起点で考えることが大切です。
顧客起点マーケティングとは?
顧客起点マーケティングとは、西口一希氏(著書『実践 顧客起点マーケティング』)が提唱した概念です。
1人の顧客をとことん理解し、独自性とベネフィットの両方が高い商品・サービスを市場に提供することで売上拡大につなげるマーケティング手法です。従来のデータ分析だけでは見えてこない顧客の姿を掴んでいるため、商品開発・販売促進など応用範囲も広いのが特徴です。
顧客起点マーケティングが重要な理由
顧客起点マーケティングに限らず、マーケティングの基本は顧客を知ることです。顧客を知ることからはじめて、それをマーケティングに反映させます。
しかし、近年デジタル化が進むことによって、顧客の顔が見えなくなり肝心のWEBマーケターも手技・手法にばかりとらわれてしまいます。
例えば、WEBマーケティングの手法の1つとしてABテストというものがあります。WEB担当者がABテストに取り組むと、目の前にある数値の改善ばかりにとらわれがちです。
このような手技・手法ばかりに注目してしまうと、次第に企業が提供する便益と顧客ニーズにズレが生じます。これでは、ABテストの結果が改善されても商品の売上向上は望めません。
現在のマーケティングの現場では、このようなことが日常茶飯事です。部分最適ばかりがおこなわれ、全体最適を見失っているといえます。だからこそ、もう一度マーケティングの基本である顧客を理解するという原点回帰が必要です。
顧客起点マーケティングが重要な理由はここにあります。
顧客起点マーケティングのメリット
自社で顧客起点マーケティングを取り入れようと検討する際、どういったメリットがあるのか気になると思います。そこでここでは、顧客起点マーケティングを実施する際のメリットについてお伝えします。
顧客理解が大きく改善する
これまで顧客分析といえば、数値で把握するに留まっている企業も多いのではないでしょうか。顧客起点マーケティングのメリットは、データでは見えてこない顧客の情報を知ることができる点です。具体的にはN1分析(1人の顧客に焦点を当てる)という手法があるのですが、これを実施することによって、数値では分からない顧客の実態を知ることが可能です。
ヒット商品を生み出しやすい
これまで顧客のニーズを把握する際には、多数の声に耳を傾けてきたのではないでしょうか。しかし、このように多くの顧客の声を聞いて新商品を開発しても、ヒット商品は生まれにくいです。なぜなら、多くの人のニーズを満たす最大公約数的な商品しか作れないからです。顧客起点マーケティングの手法を活用すれば、競合他社の商品とは差別化されたものを生み出しやすいです。
優良顧客を増やすことができる
顧客起点マーケティングでは、顧客をさまざまな手法でセグメント化します。その分類された顧客ごとにマーケティング施策をおこなうことで、効率的に優良顧客を獲得していくことができます。
新規参入者の脅威に備えられる
顧客起点マーケティングを継続的に実施することで、従来よりも早く新規参入者の情報をしることができます。また、それに対してのリスクを把握することができるため、自社の競争力を高めることができます。
顧客起点マーケティングの基本的な手法
ここでは、顧客起点マーケティングを理解するうえで重要になる下記4つの概念・手法について解説していきます。
- アイデア
- セグメント化
- 行動・心理データ分析
- N1起点の分析
1つずつ解説します。
アイデア
顧客起点マーケティングでは、アイデアという概念を大切にします。アイデアにはプロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアの2種類があります。
プロダクトアイデア
プロダクトアイデアとは、独自性とベネフィットの両方を兼ね備えた商品・サービスのことです。顧客起点マーケティングでは、このプロダクトアイデアを重視します。
独自性というのは、他の商品・サービスと差別化ができているという意味です。コモディティ化されていないものを指します。
また、ベネフィットというのは顧客が商品・サービスを購入することによって得られる恩恵のことです。
顧客起点マーケティングの考えでは、この両方を満たすことが大切です。例えば、ベネフィットはあるけれど、独自性がないということであれば、顧客が自社の商品を選ぶ理由がありません。一方、独自性があるけれどベネフィットがない商品なら、顧客が商品をリピート購入してくれません。
このように、プロダクトアイデアでは独自性とベネフィットの両方を満たす必要があります。
コミュニケーションアイデア
コミュニケーションアイデアというのは、WEB広告をはじめとする商品・サービスを認知してもらうためのアイデアのことです。
プロダクトアイデアが多少劣るものであったとしても、コミュニケーションアイデアが顧客の興味を引くものであれば、売れる可能性があります。しかし、プロダクトアイデアが劣っている場合、コミュニケーションアイデアでそれをカバーできるのは短期的なものです。
そのため、顧客起点マーケティングでは、プロダクトアイデアをより重視します。
セグメント化
顧客起点マーケティングでは、次回購買意欲と現在購買頻度という2つの基軸をもとに顧客をセグメント化します。
購買頻度を軸にしたセグメント化を顧客ピラミッドと呼んでいます。顧客ピラミッドをさらに購買意欲と組み合わせたセグメント化を9セグマップと呼んでいます。このように顧客のセグメント化をおこなうことで、適切なマーケテイング施策を決定することができます。
分類方法1.5セグマップ(顧客ピラミッド)
5セグマップとは、購買頻度を元にセグメント化したものです。顧客ピラミッドで基本的なマーケティング戦略を構築します。ターゲット全体を調査して5つに分類します。
主に次の5つに分類します。
- 未認知顧客
- 認知・未購買顧客
- 離反顧客
- 一般顧客
- ロイヤル顧客
未認知顧客とは、まだ自社の商品について存在を知らない顧客のことです。もっとも人数が多くなるため、通常、ピラミッドの一番下の層にあたります。
認知・未購入顧客は、自社の商品・サービスについて認知している顧客のことです。ただし、まだ購入した経験がありません。離反顧客は既に自社の商品・サービスを購入したことがある層です。しかし、現在は購買をストップしている層のことです。
一般顧客は、自社の商品を購入したことがあり、かつ購買頻度が低~中程度の層です。ロイヤル顧客は自社の商品を購入したことがあり、かつ購買頻度が高い層です。
このように顧客を5つのセグメントで捉えるのが5セグマップです。
分類方法2.9セグマップ
9セグマップも顧客をセグメント化するフレームワークです。9セグマップでは、5セグマップの分類に加え、さらに次回の購買意欲で分類します。9セグマップ分析で、販売促進とブランディングを両立します。
セグメント化すると次のように分けることができます。
- 未認知顧客
- 積極×認知・未購買顧客
- 消極×認知・未購買顧客
- 積極×離反顧客
- 消極×離反顧客
- 積極×一般顧客
- 消極×一般顧客
- 積極×ロイヤル顧客
- 消極×ロイヤル顧客
基本的には、5セグマップでセグメント化した顧客に積極と消極の視点を加えたものです。積極というのは、次回購買意欲が高いという意味です。逆に、消極というのは、次回購買意欲が低いことを表します。
また、未認知顧客については、商品・サービスに関して認知していないわけですから、積極と消極の分類はできませんので、そのまま未認知顧客と定義します。
行動・心理データ分析
顧客起点マーケティングでは、行動・心理データの分析をおこないます。顧客起点マーケティングの目標の1つは、顧客を「積極×ロイヤル顧客」に成長させていくことです。
そのため、セグメント化された顧客がどのような行動をとれば「積極×ロイヤル顧客」に変化するのかについて分析します。さらに、その行動をとった心理的背景もあわせて分析します。
量的調査による心理データ分析の限界
行動・心理データ分析をおこなう際に限界があることも把握しておく必要があります。特に心理データ分析においては、顧客自身もなぜその行動をとったのか理由を明確に自覚しているわけではないからです。こういった心理データ分析には限界があることに注意をしてください。だからこそ、N1起点の分析が重要です。
N1起点の分析
N1起点の分析とは、ロイヤル顧客などを中心に、直接話を聞いていくことです。実店舗がある場合は、お店に足を運んで顧客に直接話しを聞くことも大切ですし、オンラインのみの場合はメールなどで聞き取ります。
また、顧客から話しを聞く際にはカスタマージャーニーを想定して、下記のような質問をします。
- 自社商品を知ったキッカケは何か?
- 商品を購入した動機は何か?
- ブランドメッセージに対しての感想
- 他社商品と比較して気に入った点は何か?
このように、顧客が商品を知るキッカケから、ロイヤル顧客に成長していった経緯を聞き取ります。
離反顧客なども分析する
N1起点の分析は、ロイヤル顧客だけでなく離反顧客などにも実施します。なぜリピート販売に結びついていないのかといった自社の課題が明確になるからです。
このように離反顧客から話しを聞くことで、プロダクトアイデアに課題があるのか、それともコミュニケーションアイデアに課題があるのかなども知ることができます。
顧客起点マーケティングをおこなう際の注意点
ここでは、顧客起点マーケティングを実施するうえでの注意点についてお伝えします。
ペルソナ設定よりN1分析
マーケティングの現場では、ペルソナ設定ということがよくおこなわれます。これは、自社が想定している理想の見込み客を描いたものです。
例えば下記のようなペルソナを設定して、マーケティング施策を決めていきます。
- 30代女性。東京都在住で子供は2人。食品会社勤務をしていて、休日の趣味はテニス
このようなペルソナ設定は近年、頻繁にマーケティングの現場でおこなわれています。しかし、顧客起点マーケティングの考えでは、ペルソナ設定は不要です。なぜなら、ペルソナ設定をしている人物はあくまでも架空だからです。
そのため、ペルソナを設定してマーケティング施策を考えても的が外れる可能性があります。その代わりに、N1分析(特定の顧客を一人だけ抽出し、その人の考え方や意見を徹底的に深堀りすること)に時間を割くことが大切です。
世代間ギャップを認識する
現在の企業幹部は、リアル世界での成功体験しか積んでいないことが多いものです。そのため、自社のターゲットとしている顧客層と意識や感覚の点でズレが生じていている可能性があります。
そういった世代間ギャップを無視してマーケティングに取り組むことは非常に危険です。N1分析(特定の顧客を一人だけ抽出し、その人の考え方や意見を徹底的に深堀りすること)に取り組む際には世代間ギャップを意識して、顧客の考えや感覚に触れることを大切にしてください。
消極×ロイヤル顧客層は離れやすい
9セグマップによる「消極×顧客ロイヤル層」は、代替品が市場に登場すると離反しやすいので注意が必要です。もし自社の収益の多くがこの層から得ている場合、なるべく早い段階で「積極×顧客ロイヤル層」に移行できる施策をとるようにします。
その際には「積極×顧客ロイヤル層」へのN1分析(特定の顧客を一人だけ抽出し、その人の考え方や意見を徹底的に深堀りすること)が役立ちます。
N1分析は継続する
N1分析は継続的に進めなければいけません。一定期間おこない、それで終了させてはいけません。
例えば、N1分析をおこなっていれば、顧客から競合商品についての情報などを聞き取ることができます。こういったリスクを早く察知しておけば、自社で事前に対策をとることも可能です。
一方、マクロ的なデータでは、こういったリスクについて察知する時期が遅くなりがちです。そのため、N1分析は継続的におこなう必要があります。
顧客起点マーケティングの事例
顧客起点マーケティングの事例としてニューヨークに本店を置くメイシーズが挙げられます。メイシーズでは、店舗販売・カタログ通販・ネット通販とマルチチャネルで事業を展開していたため、どこに優良顧客が存在するのかを正確に把握することができていませんでした。
そこで、これまでの顧客接点を見直し、企業と顧客とのコミュニケーション改善に取り組むことで、数億円単位の収益改善が実現しています。顧客の購買行動・心理を元にしたメイシーズの施策は顧客起点マーケティングのよい事例といえます。
まとめ