DXとは?意味や経済産業省の定義・必要性を徹底解説
新たなデジタル技術を活用して生産性アップや新ビジネスの創出を図るDXは、IT技術の急速な発展に伴い耳にする機会が増えてきました。しかし、単語だけが独り歩きしており、DX化の必要性や推進時の課題などについて理解できていない方は少なくありません。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(Digital Transformation)とは、新たなIT技術を活用することで人々の暮らしに好影響を与えるといった考え方のことです。スウェーデンにあるウメオ大学の教授「エリック・ストルターマン」氏が2014年に提唱したことが、この考えが世界に普及するきっかけとなりました。
経済産業省によるDXの定義
DXは、経済産業省によって明確な定義が公表されています。経産省の資料によると、日本におけるデジタルトランスフォーメーションの定義は次のとおりです。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
企業に対して焦点が当たった内容となっており、新たなIT技術をビジネスに活用して優位性を確保することがDXであるといえます。
類語との違い
しばしば似た語句として扱われる次のような単語の意味は、以下のとおりです。
- デジタイゼーション・・・従来アナログで行ってきた作業の一部にデジタル技術を取り入れること
- デジタライゼーション・・・デジタル技術を使ってビジネス上で新たな価値を創造すること
- デジカル化・・・アナログ作業のデジタル化、もしくは上記2つの総称
一部作業にIT技術を取り入れるデジタイゼーションが第一ステップ、デジタル技術を活用して新たな価値を創造するデジタライゼーションが第二ステップとなります。そして、競争上の優位性を確立する「DX」が第三のステップです。
デジタル化は、アナログ作業にIT技術を導入することを意味する語句として使われます。そのほか、第一・第二ステップの両方を意味する言葉として使われることもあります。
DXと略される理由
Digital Transformationの略称に「X」が使われることへ疑問を持った方がいるかもしれません。これは、英語圏において「Trans」を「X」と省略することが一般的だからです。
もともとはスウェーデンの大学教授が提唱した考えだったこともあり、同地域における略称が使われるようになったと考えられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)はなぜ必要か
新たなIT技術を活用する重要性は、多くの方が感覚的に理解できるかもしれません。しかし、DXが具体的になぜ必要であるか理解できていない方は少なくないはずです。
目的意識を持ってDX化を推進するためにも、必要性について改めて理解しておきましょう。
- システムの老朽化が進んでいるため
- 競合他社との競争に勝つため
- 市場ニーズの変化に対応するため
1. システムの老朽化が進んでいるため
最大の理由は、日本の多くの企業においてシステムの老朽化が進んでいることです。いわゆるレガシーシステムといわれる古い環境は、現在使われているようなデジタル技術がない時代に構築されました。ゆえに、最新のものと比べると非効率的なシステムであることが多く、生産性の低下や従業員の労働環境が改善されない原因となっています。
システムが古いために属人的な業務が多く、継承者の不足を嘆く企業も少なくありません。レガシーシステムの運用に、各社の貴重なリソースであるIT人材の工数が割かれていることも問題となっています。これらの問題は会社の業績に悪影響を与えるため、課題解決につながるDX化は必須であるといえるでしょう。
2. 競合他社との競争に勝つため
二つ目の理由に、競合に対する優位性を確保することがあげられます。デジタル技術を事業にうまく取り入れると、新たな価値の創造やシェアの拡大につながります。市場に対して提供できる価値が大きくなったり、恩恵を受ける顧客が増えたりすることで、競合他社との差別化につながるのです。
DX化によって恩恵を受けられるのは、社内の人材だけではありません。市場に対する影響度を拡大するためにも、デジタル化の推進は重要といえます。
3. 市場ニーズの変化に対応するため
三つ目は、市場ニーズの変化に対応することです。新型コロナウイルスの影響により対面で行う事業が打撃を受けたように、社会を取り巻く環境の変化は年々複雑さを増しています。社会環境が変わると市場ニーズも変化するため、以前と同様に事業を行っていては顧客が離れてしまう可能性があるのです。
最先端のIT技術を事業に活用すると、スピード感を持って変化に対応できます。一方、レガシーシステムで運用する事業は短期間で需要の変化に対応できないため、結果として競合に市場を奪われかねません。今後も継続的に事業を行うためには、デジタル技術の導入が必須といえるでしょう。
DX化により期待できる効果
デジタル技術の導入にはどんなメリットがあるのでしょうか。ここでは、期待できる主な3つの効果について解説します。
- 生産性アップによる業績向上
- 従業員の労働環境改善
- 新たなビジネスの創出
1. 生産性アップによる業績向上
DX化が進むと、生産性や業績が向上します。従来アナログで行っていた作業をITツールなどに置き換えられるため、業務の遂行に必要な工数が減るからです。
たとえば、もともと紙で製品の製造記録を取っていたメーカーの現場について考えてみましょう。この現場で記録方法をデジタル化すると、製造履歴を残すために必要な時間が短縮され、その結果として従業員の勤務時間を少なくできます。履歴をデジタル化することで、紙の整理やデータ分析に要する時間も短縮できるかもしれません。
ほかの業界においても、IT技術の導入によって生産性が向上する事例は多数あります。業績アップにも直結するため、経営層こそ意識すべき内容といえるでしょう。
2. 従業員の労働環境改善
生産性アップにより好影響を受けるのは、会社の業績だけではありません。業務の遂行に必要な工数が減るとより短時間で仕事を終えられるので、従業員のワークライフバランスも改善されます。
政府が働き方改革を推進していることからもわかるように、長時間労働や仕事とプライベートの両立などに悩んでいる方は少なくありません。社員にとってより働きやすい環境とするためにも、デジタル技術の導入は重要といえます。
3. 新たなビジネスの創出
新たなデジタル技術を事業に応用すると、これまでなかったビジネスの創出につながります。たとえば、クラウドやAIなどの技術を使って国際市場にビジネスを展開したり、5Gなどの新技術を活用して革新的なサービスを提供したりと、従来なかったモデルが創出されることは十分現実的です。
変化の速い昨今においては、DX化によって新たなビジネスモデルを創出することが必須といえるかもしれません。企業の成長・発展のために、DXは無視できない内容です。
DXの現状の課題
DXの重要性を理解している企業は多いですが、現状あまり普及しているとはいえません。デジタル化が進んでいない原因としては、以下の3つが考えられます。
- 既存システムに一貫性がない
- IT人材が不足している
- 経営戦略が不明瞭
1. 既存システムに一貫性がない
根本の課題といわれているのは、既存システムに一貫性がないことです。日本企業の多くは事業部門ごとにシステムを構築しており、会社全体でデータを共通利用できる環境が整備されていません。各部署が独自にカスタマイズしていることで、システムを統合しようと動いた際にも苦戦しているのが現状です。
古いシステムの保守・運用にも工数がかかるため、新たなデジタル技術を導入するために投資する余裕がない会社も多くあります。将来的に大きな損失につながる恐れもあるため、簡単に解決できる課題ではないものの早急に取り組むべき内容といえるでしょう。
2. IT人材が不足している
二つ目の課題は、DX化を推進するIT人材の不足です。そもそも多くの企業は、システム構築をベンダーと呼ばれる外部の会社に依頼しています。ゆえにDX化を推進できる社内人材が乏しく、問題意識はあるものの手を付けられていない会社が少なくありません。
IT人材が在籍する会社でも、レガシーシステムの管理に工数を割かなければならず、新たなデジタル技術の導入に着手できていないケースは多くあります。IT人材が不足していることは、DX化の普及に向けて大きな課題といえるでしょう。
3. 経営戦略が不明瞭
DX化は、社内全体の体制にも影響を及ぼす大きな改革です。そのため会社としてデジタル改革を進めるには、現場サイドに指示を出す経営層の明確な戦略が欠かせません。
DXの推進には、新たなデジタル技術に関する総合的な知見や現状の課題を正確に分析する力などが求められます。しかし、これらの知見を持つリーダーは少数であり、重要性を理解していても的確な指示を出せていないケースが少なくありません。
実際に業務を遂行する人材に関してだけでなく、経営層においても知見を持っていない場合が多くあるのです。DXの推進には、まず経営層が現状の課題とその解決法を具体的に描き切る必要があるといえるでしょう。
DXに関係する技術
IT関係の業務に従事していない方は、DX化を図る際に活用する技術についてあまり知識がないかもしれません。そこで本章では、DXに関係する技術を5つ紹介します。
- AI・IoT
- ビッグデータ
- クラウド
- 5G
- サイバーセキュリティ
1. AI・IoT
人工知能を意味するAIは、コンピュータにあらゆるパターンを認識させて、従来は人手に頼っていた作業を自動化する技術です。人が行う場合は動作が均一でないためミスをすることがありますが、自動的に作業するAIは正確性にも優れています。
一方、モノのインターネットといわれるIoTは、さまざまなモノにインターネットを接続することで情報交換を可能にする技術です。直接触れなくてもモノを操作できたり、故障情報を受信できたりする技術であり、昨今ではスマート家電などに活用されています。
2. ビッグデータ
巨大なデータの集合体を意味するビッグデータは、従来は管理できなかった圧倒的な量の情報を記録・解析することで、ビジネスの創出・改善などに役立てられる技術です。単に量が多いだけでなく種類や頻度などもさまざまであり、複雑なデータを管理できることが特徴です。
前述したAIはまさにビッグデータが基盤にある技術であり、IoTによって受信する情報もビッグデータとして蓄積されます。課題解決の糸口を発見するきっかけとなるため、DX化を推進する上で重要な技術といえるでしょう。
3. クラウド
クラウドは、サーバーやソフトウェアなどを持たずともサービスを利用できる技術です。この技術により、ネットワークさえあればITサービスを使えるようになりました。
従来のように物理的な保存場所を設けないことから、雲を意味するクラウドの名称が付いたといわれています。ネットがあれば必要なときに必要なだけアクセスできるため、生産性向上を図るDX化の推進時には欠かせない技術といえるでしょう。
4. 5G
第5世代移動通信システムといわれる5Gは、スマホなどに用いられる無線の通信技術です。現在主流の4Gよりも高速な通信を可能とし、遅延の縮小化や同時接続台数の増加などにつながると期待されています。
スマホの利用時にも目に入る情報なので、ほかの技術と比べるとイメージしやすいかもしれません。通信技術の向上はDX化の発展を強く後押しするので、重要な技術の一つとして必ず押さえておきましょう。
5. サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、デジタル化された情報の安全性を確保するための技術です。具体的には、蓄積したビッグデータの流出や不正なアクセスを防ぐために活用されます。
システムやデータの管理が安全になされていないと、DX化を進めてもサーバー攻撃の被害に遭ってしまうかもしれません。取り返しのつかない事態になることを防ぐためにも、サイバーセキュリティは非常に重要な技術といえます。
DX化に積極的な企業の事例
続いてこの章では、DX化に積極的な企業の取り組み事例を3つ紹介します。
- 日本郵船株式会社
- 清水建設株式会社
- ソフトバンク株式会社
今回は、デジタル活用の実績が優れた企業として経済産業省が認定する「DX銘柄のリスト」からピックアップしました。各社の取り組み内容について、順に見ていきましょう。
1. 日本郵船株式会社
日本郵船は、2016年・2017年に続いて2021年度もDX銘柄に選出されました。DXに関する同社の取り組み内容には、以下などがあげられます。
- 船上電子通貨「MarCoPay」の実用化
- 自動車専用船の運航スケジュール策定支援システムの開発
- 新造船の建造契約における実海域性能保証の導入
- 自動車専用船による世界初の有人自律運航実証実験の実施
- 「NYKデジタルアカデミー」での人材育成
引用:日本郵船株式会社「「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021」に選定」
電子通貨の実用化やデジタル技術などについて学習する育成プログラムなど、海運業界ながらIT技術の導入に積極的であるとわかります。
2. 清水建設株式会社
清水建設がDX銘柄に選定されたのは、2017年以来となる2回目です。同社は中期経営計画として「デジタルプラットフォームを活用する」と謳っており、DX化の推進に積極的であることを評価されて選出されました。
具体的には、建設・土木事業におけるプロジェクトの全行程で一貫したデータ連携体制を構築したり、電子決裁やデータベースによる情報連携を推進していたりします。会社が目指すゼネコン像として「デジタルゼネコン」を掲げていることからも、DX化の推進に前向きであるとよくわかるでしょう。
3. ソフトバンク株式会社
ソフトバンクは、情報・通信業において唯一DX銘柄に選定されている会社です。同社が経産省に評価された取り組みには、以下などがあります。
- スマートシティ(社会のDX)
- ヘルスケアアプリ「HELPO」(産業のDX)
- 5G関連ビジネスの共創を推進する施設「5G X LAB OSAKA」(産業・企業のDX)
- 社内でのDX推進
引用:ソフトバンク株式会社「経産省と東証がソフトバンクを「DX銘柄2021」に選定」
ITやAIを活用した社内の働き方改革だけでなく、5GやIoTを使ったスマートシティ・医療系アプリなど、事業としてもDXに取り組んでいることが特徴的です。社会課題解決に向けた新規事業が評価されていることから、DXの推進を牽引する企業ともいえるでしょう。
DX化を進める際の注意点
最後に本章では、DX化を進める際の注意点を3つ紹介します。
- 経営層を巻き込む
- システムの導入を目的にしない
- 定期的に効果を検証する
1. 経営層を巻き込む
デジタル技術の導入は、現場の担当者だけで取り組める内容ではありません。そのため、DX化を推進する際には経営層を巻き込み、最終的なゴールを明確化した上でトップダウンで取り組む必要があります。
明確な目標を設定するには、まずは経営層が全体を俯瞰して現状の課題を認識することが必須です。その上で社内全体に指示を出し、共通の認識を持ってから具体的な動きを始めましょう。
ゴールが不明確な状態で取り組むと、中途半端な結末になる恐れがあります。貴重な予算や時間を無駄にしないように、経営層を巻き込むことが大切です。
2. システムの導入を目的にしない
DX化の目的は、生産性を向上させたり市場ニーズに対応したりすることです。しかし、新たなシステムを導入するだけで満足してしまうケースが少なくありません。
DX化に限らず新たなシステムや技術を導入したら、効果測定や運用後の反省点を踏まえて改善する必要があります。最終的なゴールを決めておくと中途半端な状態になりにくいので、導入費用を無駄にしないためにも事前の目標設定が重要です。
3. 定期的に効果を検証する
導入したシステムの有効性を判断するために、定期的に効果を検証することが大切です。検証時にトラブルや課題に気がつけると、仮に損失があった場合にも素早く対処できます。
慣れないデジタル技術の導入によって、かえって生産性が低下するケースもゼロではありません。より効率的にDX化を進められるよう、こまめに効果を確認しましょう。
まとめ