バリューポートフォリオとは?メリットと問題点を解説
バリューポートフォリオという企業戦略を聞いたことはありますか。これは、株主と経営者それぞれの視点から事業を見極めるための戦略です。
バリューポートフォリオとは?
経営を考えるための戦略フレームワークを、バリューポートフォリオといいます。自社の事業を評価するシステムで会社経営に必要な利益と方向性の統一をはかります。この時の利益を「ROI」といい、方向性は「ビジョンの整合性」といわれるものです。バリューポートフォリオにおけるフレームワークでは、事業を4つのセグメントに細分化し、分析し存続や、修正、撤退を見極めることが特徴です。
ROI(投下資本利益率)は、株主の視点を反映しており、投入した資本に対して得られた利益の割合を示します。一方、ビジョンとの整合性とは経営者の視点を反映し、事業が企業の掲げるビジョンにどれだけ合致しているかを評価します。
これは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって考案されたもので、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)と同様の考え方に基づいています。
バリューポートフォリオを活用することで、企業は効率的に資源を配分し、持続可能な成長を目指せます。細分化されたセグメントから各事業に対して取るべき戦略を明確に考えることができるようになるでしょう。
ROIとは
ROIとは、日本語で投資利益率という意味を持ち、企業がどれだけ利益を上げているかを示す指標です。ROIは「利益 ÷ 投資資本」によって計算され、数値が高ければ高いほど、その企業が多くの利益を上げていることを示します。
株主や投資家にとって、企業が利益を上げることが最も重要な関心事であるため、ROIは一般的に株主視点として位置づけられています。
ビジョンとの整合性とは
企業は通常、将来のあるべき姿を明確にした経営ビジョンを掲げています。利益目標が株主視点に基づいているのに対し、ビジョンとの整合性は経営者視点での事業分析のことです。
ビジョンにのっとった事業であることが、会社の存続には必要と考えられており、利益があってもビジョンに沿わない事業は、バリューポートフォリオを用いた戦略対策が必要です。
バリューポートフォリオのメリットと問題点
最大のメリットは株主と経営者の両方の視点から各事業を分析できる点です。バリューポートフォリオをそれぞれの視点から活用するためのメリットと問題点を説明します。
株主の視点とメリット
バリューポートフォリオを利用することで、株主が重視する利益率を意識しつつ、運営戦略を検討することが可能です。運営戦略が明確であれば、社員は統一された目標に向かって業務を行うことができ、生産性の向上も期待できます。
しかし、社員の満足度が高く、ビジョンに向かって業務を行っている場合でも、採算が取れなければ、株主だけでなく会社全体にとってもマイナスとなります。したがって、ビジョンとの整合性を保ちながら利益率にも注目できるバリューポートフォリオを活用することで、効果的な運営が可能になります。
経営者の視点とメリット
バリューポートフォリオを導入することで、経営者の視点から事業を分析することが可能です。経営者にとって重要なのは、利益だけでなく、経営ビジョンの達成です。たとえ利益が出ていても、経営ビジョンと一致していなければ、株主からの評価は高くても社員や顧客からの評価が下がる可能性があります。これにより、社員の離職率が高まったり、ブランド力の低下といったリスクが生じることがあります。
ビジョンと一致していない場合は、現在出ている利益ではなく、事業内容やビジョンを再度見直して軌道の修正が必要です。バリューポートフォリオを活用することで、ビジョンとの整合性と利益の両方を可視化できるため、運営において非常に有効です。
株主視点であるROIの数字と合わせて自社の事業を分析することで、経営者が独断で経営を行うリスクを防げます。一方、経営者視点で分析することにより、事業全体に統一感を持たせ、企業のブランドイメージを一定に保つことが可能です。
バリューポートフォリオの問題点
バリューポートフォリオには、具体的な基準が不明確であるという問題があります。経営ビジョンとの整合性については、ビジョンが抽象的であるとすべての事業が整合性が取れていると評価される可能性があります。また、ROIの基準についても、何%が適当かは分析者の裁量によるため、一定の主観が入りやすいです。
このように、ビジョンとの整合性やROIの基準設定は相対的であり、曖昧な部分が多いため、見切り事業の選定が正確に行われるかどうかに疑問が生じることは理解できます。基準が曖昧であると、意図せずして不適切な事業が見切り事業として扱われる可能性もあるため、これらの問題をどう解決するかが重要です。
特に、ROIや市場の成長率といった数値基準が明確でないと、分析結果の信頼性が低くなる可能性があります。
そのため、これらのフレームワークを実用的に活用するためには、基準をできるだけ具体的に設定し、評価プロセスを明確化することが重要です。また、フレームワークのメリットとデメリットを理解し、状況に応じて柔軟に対応することが、より効果的な活用につながります。
バリューポートフォリオのセグメント
事業を見極めるために、バリューポートフォリオは、以下の4つのセグメントに分かれます。
- 本命事業
- 課題事業
- 機会事業
- 見切り事業
4つに細分化することで、ROIとビジョンとの整合性の二軸で事業を分析し今後の経営課題を対策強化できるからです。詳しく説明します。
本命事業
本命事業とは、ROIとビジョンの整合性のバランスが取れている事業のことです。これは、株主にとっても経営者にとってもバランスの良い事業と判断されます。しっかりと利益を上げているだけでなく、企業のビジョンとも一致しているため、戦略面においても現状で問題がないため、大幅な変更は必要ありません。
本命事業に分類されると、市場価値があると判断できるので更なる成長と拡大が求められます。現状のROIを維持しつつ事業を成長・拡大させることができれば、株主からの評価が高まり、ブランド力の向上にもつながります。事業を行う上では、理想的といえる状態です。
課題事業
課題事業とは、株主の利益であるROIが低めですが、経営ビジョンとの整合性が取れている状態の事業です。ビジョンと一致しているため継続できると考えられますが、スポンサーである株主や投資家の満足度が低くなるという特徴があります。
課題事業では、営業戦略の見直しやコスト削減を行い、利益率の向上を図ることが最優先課題です。事業運営の方向性自体は経営ビジョンとの整合性があるため、基本的に変更する必要はありません。課題事業が利益を出せるようになれば、本命事業に変わる可能性は十分に考えられます。
機会事業
機会事業とは、株主のROIは高いものの、経営のビジョンと整合性が取れていない事業の状態です。利益を出しているため、そのままで良いと考えられがちですが、今の状況は将来的なビジョンとは方向性が異なり、結果として顧客の理解を得られずブランドとしての価値が下がる危険性があります。
トップの経営課題は無理に長期間続けると、社員も方向性を見失い離職する率が増えやすいです。こうした場合に事業内容をビジョンと一致させるためには、修正するか、ビジョンを変更するかの選択が必要です。そして具体的な対策を講じたうえで、事業の進退を決定します。機会事業ではビジョンに合うように事業内容を修正する対策をする会社がほとんどです。
見切り事業
見切り事業とは、ビジョンとの整合性が取れておらず、ROIも低い状況にある事業です。これは、一時的なブームに乗ろうとしての失敗、戦略ミス、時期尚早など、さまざまな理由が考えられます。このような場合、事業修正に時間や費用をかけるのではなく、早めに撤退するべきだといわれています。
このまま事業を続けても利益が得られるとは限りません。そのため見切り事業であることが明確にわかる事業は、早急に撤退もしくは縮小すべきといわれています。
バリューポートフォリオが有効な企業
バリューポートフォリオが有効な企業には以下の特徴があります。
- 複数の事業を展開している会社
- 経営ビジョンが明確な会社
- リソースが限られている会社
- 成長と収益のバランスを取りたい会社
それぞれ理由を説明します。
複数の事業を展開している会社
複数の事業ポートフォリオを持つ会社では、各事業の価値と収益性を評価するためにバリューポートフォリオが有効です。機会事業や見切り事業などは、過去のデータを分析することでより良い方向へともちこむこともできるでしょう。
経営ビジョンが明確な会社
経営ビジョンが明確化している会社は、ビジョンを達成するために各事業がどの程度貢献しているかを把握し、将来的に経営陣が思い描くビジョンと一致させるための指針としてバリューポートフォリオが役立ちます。方向性が定まることで社員のモチベーションや生産効率なども上がりやすいです。
リソースが限られている会社
どの事業に投資すべきかを判断するツールとして役立ちます。会社の限られた資源を最も効果的に活用するためになくてはならない戦略となるでしょう。
成長と収益のバランスを取りたい会社
成長戦略と収益性のバランスを取りながら事業を展開するために、各事業の価値を評価し、戦略的な意思決定をサポートします。バリューポートフォリオを用いることで、短い時間での結果につながりやすくなります。
バリューポートフォリオを行う際のポイント
バリュー・ポートフォリオを活用する際には以下の7つのポイントに気を付けましょう。
- 基準の明確化: ROIやビジョンとの整合性の基準を明確に設定し、主観を排除することが重要です。基準が曖昧だと、評価結果が不安定になる可能性があります。
- ビジョンの具体性: 経営ビジョンが抽象的すぎると、整合性の評価が難しくなります。ビジョンは具体的で実現可能なものにすることが望ましいです。
- ROIの基準設定: ROIの基準を設定する際には、業界の標準や過去の実績を参考にし、現実的で適切な数値を設定する必要があります。
- 定期的なレビュー: 市場環境や企業戦略の変化に応じて、バリュー・ポートフォリオの評価基準や事業の評価を定期的に見直すことが必要です。
- 定量と定性のバランス: ROIなどの定量的な指標だけでなく、ビジョンとの整合性などの定性的な要素も考慮するバランスが重要です。
- データの正確性: 分析に使用するデータの正確性を確認し、信頼性の高い情報に基づいて評価を行うことが重要です。
- コミュニケーション: 結果や基準設定について経営陣や関係者と十分にコミュニケーションを取り、共通の理解を持つことが成功の鍵です。
これらの点に留意しながら、バリューポートフォリオを活用することで、より効果的に事業ポートフォリオの管理が可能になります。
バリューポートフォリオに関するよくある質問
Q:バリューポートフォリオとは?
Answer)バリューポートフォリオとは、企業が複数の事業やプロジェクトの価値と収益性を評価し、経営ビジョンに基づいてリソースを最適に配分するためのツールおよび手法です。
Q:バリューポートフォリオが注目される理由は?
Answer)バリューポートフォリオが注目される理由は、複数の事業を展開する企業が経営ビジョンに沿ってリソースを最適配分し、成長と収益のバランスを取るための戦略的意思決定を支援するためです。
Q:バリューポートフォリオが有効な会社の特徴は?
Answer)バリューポートフォリオが有効な会社は、複数の事業を展開し、経営ビジョンが明確で、リソースが限られている中で成長と収益のバランスを取りたいと考える会社です。
まとめ