SPF(ソリューションプロダクトフィット)とは?事業開発達成のためのポイント
SPF(ソリューションプロダクトフィット)とは、事業開発の最終段階であり、プロダクトが顧客の課題を解決するための具体的な方法を検証するフェーズのことです。SPFは、提供する解決策が現実的にプロダクトとして実現可能かどうか、そのプロダクトが市場で受け入れられるかを確認する重要なプロセスです。
事業開発ではR&D(研究開発)、CPF(カスタマープロブレムフィット)、PSF(プロブレムソリューションフィット)を経て、SPFに至ります。このフェーズでは、実際に製品を顧客に提供し、フィードバックをもとに製品を改善しながら、再現性のあるプロダクトを構築することになるため、この後のステップになるPMFの前段階として非常に重要なフェーズです。
SPFとは
SPF(ソリューションプロダクトフィット、Solution Product Fit)とは、解決策をプロダクトとして実現できるかどうか、またはプロダクトが解決策を提供できるかを検証するフェーズのことです。フィットジャーニーの手順でいえば、事業開発の最終段階であり、事業活動の初期フェーズであるPMF(プロダクトマーケティングフィット)の前段階のフェーズです。
自社の提供する解決策(ソリューション)が商品やサービス(プロダクト)で実現可能かどうかを検証することが主目的ですが、単純な実現だけではなく再現性が高いプロダクトを提供できているか、提供する際の価格やコストが妥当かなどの現実的な問題を解消することもSPFの目的の1つです。つまり、SPFは顧客へ提供する価値とビジネスの実現可能性の両立を検証するフェーズともいえます。
SPFとフィットジャーニー
一般的に、新規事業をはじめる場合には上記のようなステップを踏みます。
- R&D:研究開発
- CPF:顧客の課題を検証するプロセス
- PSF:課題への解決策を検証するプロセス
- SPF:解決策を実現するプロダクトを検証するプロセス
- PMF:プロダクトが市場に合うか検証するプロセス
- GTM:市場でスケールできるか検証するプロセス
ここで、R&DからSPFの段階(調査を行い、実際にプロダクトに落とし込むプロセス)を事業開発といい、PMFから先を事業活動(作成したプロダクトが正しいかを検証してグロースするプロセス)と呼びます。
よく商品やサービスを作る際には、顧客ニーズを捉えているのか、ニーズの解決策になっているのかという観点でPMFだけが重要視されますが、PMFはプロダクトが実現できることがわかった後のステップであり、事業開発の段階としてはPMFの前段階としてSPFが必要です。
事業開発のステップ | 各ステップの終了条件 |
CPF(カスタマープロダクトフィット) | 顧客が抱えている課題が明確になっていること |
PSF(プロブレムソリューションフィット) | 検証した顧客課題への解決策を明確になっていること |
SPF(ソリューションプロダクトフィット) | 検証した解決策がプロダクトによって実現できること |
PMF(プロダクトマーケットフィット) | 検証したプロダクトが市場に受け入れられること |
それぞれのステップの名称が似ていますが、いずれも2つのことを順次確認して次にステップに回すことで事業開発としてのプロダクトの改善を繰り返し、市場に出られる用意をしています。
CPF(カスタマープロブレムフィット)
CPF(Customer Problem Fit、カスタマープロブレムフィット)は顧客(カスタマー)と課題(プロブレム)に関する仮説検証フェーズです。ここで顧客課題を明確にできずに次のステップに進んでしまうと、PMFの段階でピボット(方向転換や路線変更のこと)をせざるを得ない状況に陥ることがあります。検証を進めた結果、ほとんど同じ商品であってもtoCかtoBかで成否を大きく分けることがありますのでCPFの段階でユーザーインタビューやジャベリンボードなどを使って実施します。
※ジャベリンボード:新規事業開発の課題仮説検証に活用できるフレームワーク。顧客、課題、解決策、前提条件の4つの要素に仮説を立て、顧客との対話を中心に検証する手法。
次の4つの手順を繰り返すことでターゲットとする顧客のイメージ、課題、検証時点での代替ソリューションを明確にしていきます。この段階でターゲットを明確にできない場合や代替ソリューションが最適解である場合にはR&D(アイデアの創出、CPFの1つ前の段階)の段階からやり直す必要があります。
- ターゲット顧客の仮説を立てる
- 課題と検証時点での代替ソリューションの仮説を立てる
- ターゲットユーザーへのインタビューを行う
- インタビュー結果から仮説を作る
PSF(プロブレムソリューションフィット)
PSF(Problem Solution Fit、プロブレムソリューションフィット)は顧客の課題を解決する最適な解決策を検証するフェーズです。CPFの段階で顧客課題が検証できているので、その課題を解決するためにはどうするかを考えることが目的です。CPFにより顧客課題が明確になることで、当初想定していたソリューションを最初から考え直す必要が出ることもあります。
PSFで解決策を検証し、次のSPF(解決策を実現する)でプロダクトを作るためにはイノベーター理論でいうところのアーリーアダプター(商品やサービスを初期段階で購入する人々)に受け入れられる必要があります。つまり、市場顧客の上位15%に受け入れられなければ、そのあとのプロダクトの普及にはつながりません。
一例でいえば、Apple社のiPhoneは熱狂的なアーリーアダプターに受け入れられたため、短期間にアーリーマジョリティ、レイトマジョリティーに受け入れられ普及の後押しをされたというものがあります。
ただし、特にtoCではユーザーごとに利用ニーズ、利用シーン、利用時間帯などが大きく異なることが多いため、ターゲットの大部分への解決策を創出できることは稀です。この後のSPFではプロダクトを創出することになりますが、このPSFとSPFの段階で相当な時間がかかるのが通常です。
SPF(ソリューションプロダクトフィット)
SPF(Solution Product Fit、ソリューションプロダクトフィット)はPSFで検証した解決策(ソリューション)を商品やサービス(プロダクト)で提供できるかどうかを検証するフェーズです。
顧客課題を特定し、解決できる方法があったとしても、ごく少数のユーザーにしか受け入れられないようではプロダクトとしては失敗です(次のPMFが実現できない)。一定以上のユーザーに受け入れられる可能性が高く、かつ、解決策を継続的に提供し続けられることがSPFの段階では必須条件です。
また、スタートアップや大手企業であっても新規事業開発部門であれば少人数で組織体制を整備せずに事業開発をすることもありますが、PMF以降のフェーズで成長を加速させるためにもSPFの段階で組織整備をすることも重要なポイントです。
PMF(プロダクトマーケティングフィット)
PMF(Product Market Fit)は提供するプロダクトが市場に受け入れられているかを検証するフェーズです。前述したアーリーアダプターだけに受け入れられてもプロダクトとして成功したとは言い難いものがあり、アーリーマジョリティやレイトマジョリティーに受け入れられなければPMFが成功したとはいえません。
そのため、市場に受け入れられるためにはプロダクトをどのように改善する必要があるのかを検証し、ビジネスとして成立させるためにビジネスモデルの再検証や提供価格、コストなども検証するのがPMFです。
参考:PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの基準と手順
SPFとMVP
SPFでは顧客の課題を解決するため、MVP(Minimum Viable Product)を作成し、実用できる最低限の機能を持った製品を用意して検証を進めることになります。最初から完璧な製品を作ることは難しく、必要だと思って付けた機能が検証の結果、不要となることもあります。このような無駄な工数を削減するため、顧客の持っている課題を解決はできるものの、機能としては必要最低限のものだけを持ったベータ版のような製品を作って本当に課題解決できるのかの検証を行い、かつ、顧客からのフィードバックをもとに主要機能を見直すことでプロダクトを改善する必要があります。
MVPは最低限の機能だけを持ったプロダクトと勘違いされがちですが、顧客が課題解決するための機能はすべて持っている必要があります。繰り返し検証をすることで顧客の抱える課題を解決しつつ、機能、信頼、使い勝手、デザインを満たすプロダクトを作ることでアーリーアダプター、アーリーマジョリティに受け入れられるような商品となります。ただし、MVPはプロトタイプの1つです。繰り返し検証し、改善を繰り返すという前提ですので制作が必要です。
MVPを作成してテストをする際には、プロダクトのどこに価値を感じたのか、なぜそのように感じたのかをヒアリングする必要があります。ただし、顧客は自身の潜在的なニーズを把握していないことがほとんどですので、ヒアリングの結果をそのままプロダクトに反映することは危険です。
検証の際に、製品の購入意向をヒアリングして「購入する」と回答があった場合でも実際には購入されないというケースは多々存在します。そのような結果にならないためには意向を確認するだけではなく、実際に購入された、申し込みされたという実績ベースの検証をすることで高い確度の検証を行うことができるようになります。
SPF活動のポイント
SPFを行う際のポイントは顧客のコミュニケーションと迅速なローンチです。事業開発では一貫して顧客ニーズを前提に検証しているため顧客とのコミュニケーションが重要であることは当然ですが、前述したように顧客からのヒアリング結果を反映すれば成功するとは限りません。
ヒアリング結果をもとに本当のニーズを探し当て、迅速にローンチすることで改善サイクルを早め、製品の最終版に近づける必要があります。
顧客とのコミュニケーション
SPFでは、ターゲット顧客とのコミュニケーションを通じてニーズや要望を把握し、解決策を提供できるプロトタイプを作成します。そして、プロトタイプへのフィードバックを取り入れながら改善を繰り返し、顧客ニーズに合ったソリューションを作ることが一般的です。
コミュニケーションにより課題とニーズが明確になり、デザイン、使い勝手、信頼性などにつながるため、顧客視点でのアドバイスからMVPの欠点や改善点を特定する活動が必須です。
迅速なローンチ
一般に、事業開発の全てのフェーズを検証するには相応の時間を要します。そのため、ベータ版のローンチを急ぎ、顧客の声を拾うというフェーズまでは可能な限り期間を短縮し、改善のための期間を確保する必要があります。ベータ版は限られた顧客に提供し、製品の実際の使用感や不満のフィードバックを収集することで最終版の製品の開発や改良に反映させることが可能になります。
顧客の声をもとにした改善はマーケットイン(顧客の声を聴き、顧客の要求や困りごとを突き止め、それらを解決する製品を市場に投入しようとする考え方のこと)という観点では非常にリスクが低く、プロダクトの成功確度を高めます。
SPF後のグロースハックのために
ターゲットとした顧客にプロダクトを届けるためにはマーケティング活動が必須です。マーケティングを検討するためには次の6つの項目での検討が必要です。
- どこで顧客にリーチするか
- どのようなかかわりを持つか
- どのように顧客になってもらうか
- 顧客にどのような体験を持ってもらうか
- どのような関係を維持するか
- どのようにリピートしてもらうか
グロースハックのためには、AIDMAやAISAS(アイドマ、アイサス。どちらも消費者の購買行動プロセスをモデル化したもの)などの顧客の購買行動を見直し、改善を繰り返すことでグロースにつなげる必要があります。
また、グロースハックのためには顧客理解と周辺分析という2つの視点を持つことも重要です。
顧客理解とは、ターゲット顧客がプロダクトを購入する動機、購入の障壁になるものへの理解のことです。世の中にないサービスや代替サービスが登場した際には、顧客には商品の体験がないため購入への不安が障壁になることがありますが、その解消手段の特定ができなければグロースは望めません。
周辺分析とは、プロダクトを展開するマーケットや事業の周辺環境を理解することです。本当の意味で世の中に初めて登場する商品というのは少なく、ターゲット顧客の購入が想定される別商品やサービスに関与して情報を集めていくことは非常に重要な視点といえます。
まとめ